[Poison]

Runaway Jury

『ニューオーリンズ・トライアル』

【Part 2】

原作を読んでしまった方にはあまり面白くないかも知れません。私はJohn Grishamファンではないので未読でしたから、最後の最後まで結末の予測がつかず、十分楽しみました。

ただ、John Cusackが陪審員になれる確率が非常に低いのが問題です。ルイジアナ州には400万の人口があり、New Orleansには21歳以上に限っても33万人も住んでいます。宝くじに当たる確率より低いわけで、特定の人物が陪審員になれるというこの物語が、かなりの偶然に頼って構築されていることが分ります。私はアメリカに来て8年になりますが、「陪審員になった」あるいは「させられそうになったが選に漏れた」という人はたった二人しか知りません。ま、誰彼なく「あなた陪審員になったことありますか?」と聞いて廻ったわけではありませんが:-)。

陪審員の買収というのは、さほどあり得ないことではないようです。私の「公民権運動・史跡めぐり」の「ミシシッピ州NAACP代表メドガー・エヴァーズの暗殺」(1963)を御覧頂きたいと思いますが、この事件の犯人が逮捕・裁判となった時、1964年の裁判は二回とも陪審員が「結論に達せず」でした。その25年後、「過去の裁判は陪審員が買収された疑いがある」という記事が発表され、三回目の裁判が行われました(この結果は有罪)。

この映画には狂人による銃撃事件と大分以前の校内銃撃事件が絡んで来ます。これらは最近の事象なので、多分「タバコ→銃器」同様の変更でしょう。以前の事件にGene Hackmanがどういう風に噛んだのかよく分りませんが、彼がずっと“黒幕”の作戦参謀なのであれば、彼の名が一般人に知られるというのは妙ではないかと思われます。

John Cusackはコンピュータ・データをMacのポータブル音楽再生機iPodにMPEG-3のデータとして保存していたと云っています。iPodは結構高い道具なので(20 GBで$500)、CD-ROMかDVD-ROMに焼く方が安上がりだし隠すのにも便利だと思われます。AppleがiPod宣伝のために金を出したのでしょうね、きっと。

Gene Hackmanの参謀本部のコンピュータはどれも大画面です。かなり後方で全体を見ているGene Hackmanにはいいでしょうが、大きなモニタの前に座っているオペレータの姿は滑稽です。画面全体を見るためにはしょっちゅう顔を動かさなくてはならない筈です。ま、映画に許される嘘の範疇ですが。

陪審員全員が突如法廷で'Pledge of Allegiance'(忠誠の誓い)を唱和するシーンは面白い。これは長く小学校、中学校などの一日の始まりの日課となっていて、生徒全員が起立し国旗に向かって誓いの言葉を述べるものです。いったん座った裁判長や告発・弁護側双方まで、訳が分からぬまま立ち上がって胸に手を当てなくてはならないというのが可笑しい。実際にはこの'Pledge of Allegiance'はいま議論の的になっています。その文句の中に「神のもとで」という一句があり、これは信教の自由を保障した憲法に違反するという訴えが起されたのです。キリスト教以外の信者はアラーだの仏陀だのを信じたりしているわけで、神を押しつけるのは不当であるという趣旨です。カリフォーニアの裁判所においてはこの訴えが支持され、現在裁判は最高裁に移行しつつあるところです。この映画の陪審員はみなクリスチャンで、一人も反対者がいなかったということになります。

ラストで、Dustin Hoffmanが全てを悟りますが、これを会話や台詞なしで、全て彼の表情一つで表現します。こういうシナリオを渡された俳優、監督は嬉しいでしょう。腕の見せ所だからです。彼らは見事にやり遂げました。拍手。(ただし、Dustin Hoffmanは過去のいきさつを全く知らないわけです。全てを知っている観客が、Dustin Hoffmanも同じ理解に達したように誤解するだけなのですが)

(October 17, 2003)





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