[Poison] JFK
『JFK』

【Part 2】

原作者の一人であるニューオーリンズの地方検事Jim Garrisonを主役に据えたことで、ニューオーリンズ在住の証人達だけが対象という制約が出来ました。それは同時に、事件と関係あるとしてもその中の小物に過ぎないということを意味します。Joe Pesci(ジョー・ペスキ)演ずるヤクザっぽい男も、かなり時間をかけて描かれている割にはさほど重要人物ではありません。

Jim Garrisonが告発したClay Shawも、実はどう事件に関わったのか定かでありません。Jim Garrisonも何も証明出来ません。

肝心の法廷場面もClay Shawを被告にしながら、彼の罪状を暴くというより、Mr.Xから聞いた推論を繰り返しているだけに見えます。被告席にいない軍上層部、Lindon B.Johnsonなどを指弾するのは法廷のルールを無視しています。その場の裁判長が注意しないのが不思議なほどです。

当然ですがClay Shawは無罪放免されます。記者団から「これからどうする?」と聞かれ、Clay Shawは「家に帰ってエテュフェでも作るさ」と答えます。エテュフェはガンボなどと並んでニューオーリンズ名物の一つに入る料理です。作り方はこの頁をご覧下さい。

最後の字幕説明の一つに「Clay Shawは****年に肺癌で亡くなった」というのが出て来ます。どうりで、映画の中でTommy Lee Jonesが年がら年じゅう煙草を吸っていたわけです。時代の差が顕著ですが、この映画では誰もがどこでもスパスパやっています。裁判長などは咥え煙草で法廷入りするし、Clay Shawも証言を聞きながら煙を吐いています。勿論、現在では公共の建物のほとんどは禁煙なので、こんな姿はもう見られません。しかし、南部、特にルイジアナ州などはまだまだ喫煙者の天国で、ホテルのどの部屋にも灰皿が置いてあったりします。禁煙フロアが無いホテルもあります。

Sissy Spacekは結構役を選んでいる女優だと思いますが、この映画の主人公の妻の役はひどいですね。彼女の演技はいいのですが、何せ脚本の造形がひどい。夫の仕事一途を理解せず、子供や自分に時間を割かない夫を非難し、責めます。公共のため、あるいは会社のために邁進する夫に不平を云う女性というのは、よく映画に登場します。家庭を第一に考える女性の本能からいって、それは間違いではないのでしょうが、あまりにも愚昧で自分本位に見えます。どの映画でもこういう女性像にイライラさせられるものですが、これってステレオタイプではないですか?よく女性観客が怒らないものだと思います。こういう人物を配置して、主人公の行動を美化しようとする魂胆があさましい。

Kevin Costnerは長い最終論告をします。この人の声音はこういう役に向きませんね。内容以前に、彼の軽い声が説得力を生みません。

Kevin Costnerの眼鏡ですが、光線の反射で真っ平らな素通しであることが一目瞭然です。健康な目の俳優に度の入った眼鏡をつけさせるわけにはいかないでしょうが、素通しでも(分厚くはしないで)多少湾曲させるとか、何か工夫出来なかったのでしょうか?

Mr.Xを演ずるDonald Sutherlandは、ここで非常に真剣に演じています。好演です。

(December 08, 2001)


【Part 3】

'Based On A True Story' by Jonathan Vankin and John Whalen (A Cappella Books, 2005)という、実話を元にした映画100本を検証する本を読みました。その中の'JFK'『JFK』の章から、これまでの私の紹介に漏れていた部分だけ引用します。

「Oliver Stone(オリヴァー・ストーン)監督の企画とその脚本が漏洩した時、映画はまだ撮影中だというのに、メディアの攻撃がこの映画に集中した。その筆頭はNew York TimesとWashington Post (及びその子会社のNewsweek)だった。筆者の多くはケネディ暗殺事件を報じたリポーターたちで、『Oliver Stoneは事実を捩じ曲げている』と非難した。

この映画はハリウッドで作られた映画の中で最も事実を多く取り入れており、Oliver Stoneは後に出典を明記した脚本を出版したほど、事実に即したストーリィであることに自信を持っていた。この映画が『事実を歪曲している』と断じる人々は、Oliver Stoneのセオリーが彼らの出版済みのセオリー(推論)と異なることに文句を云っているに過ぎない。

Oliver Stoneが主人公に選んだ地方検事Jim Garrisonは、映画が公開された頃は死の床にあり、翌年亡くなった。Jim Garrison当人は『傲慢さと疑り深さ』などの短所を取り沙汰される個性の持ち主だったが、Oliver Stoneは『これはJim Garrisonを描く映画ではなく、JFKを描くものだ』という理由で、そうした要素を無視した。

ケネディ大統領暗殺の謎解きをして見せるMr.Xのモデルは、主としてL. Fletcher Prouty(L. フレッチャー・プラウティ)空軍大佐である。Mr.Xの主張の大部分は彼の出版物と各種インタヴュー記事で同大佐が展開した内容と同じだ。

Kevin Baconが演じたWillam O'Keefeという証人(囚人)は、Perry Russoほか数人の人物を合成したものだ。

地方検事補Lou Ivonが映画のように職を辞してJim Garrisonの元を去るということはなかった。また、Jim Garrisonの調査チームに女性は存在しなかった。

大幅に事実と異なる映画は沢山あるのに、なぜ事実にかなり忠実なこの映画だけが攻撃されるのか?彼らはOliver Stoneの主張が気に入らないのだ。JFKは彼らの世界観を攻撃し、彼らの固く信じているものに疑問を投げかける。大抵のハリウッド映画は観る者を慰め励ますことを目的に作られているが、JFKは後味が悪い。この映画は観る者を考えさせ、疑問を抱くことを強いる。これは他のメディアが(この映画を攻撃したことで分るように)絶対にやりたがらないことである」

この本では触れられていませんが、Jim Garrison自身は大統領暗殺事件調査委員会(ウォーレン委員会)委員長であるEarl Warren(アール・ウォーレン)最高裁長官の役で特別出演しています。

(December 23, 2010)





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