[Poison] Last Holiday
『ラスト・ホリデイ』

【Part 2】

この映画を観た収穫の一つは、Queen Latifahの台詞によって"Shit!"の婉曲語法に"Sugar!"という言葉があると知ったことです。それまで"Shoot!"しか知りませんでした。女性には"Sugar!"の方が似つかわしいですね。

私はデパートの診療所の医師がCTスキャンについて「うちのスキャナは旧型だけど、ちゃんと機能する」とマネージャーに説明していたのが不思議でした。何故、わざわざ“旧型”という必要があるのか?やはり、それは伏線だったのです。ま、普通デパートの診療所でCTスキャンなど出来る筈がなく、それをするためには患者は大きな病院に送り込まれるのが普通です。しかし、大病院の最新設備だとこのストーリィは成立しなくなってしまうんですね。

「余命は三週間」というのも随分乱暴です。そんな細かく予言出来るものでしょうか?三ヶ月とか半年と云うんじゃないですか、普通?

Queen Latifahがたった数日とは云え、名の通った実業家や政治家とつきあってボロを出さなかったというのも奇跡的です。一介のデパートの売り子ですからね。多分、短大にも行っていないでしょう。言葉遣い、知識・教養、行儀作法、どれを取っても一夜にして上流階級と親しく交われる素養はないと思います。そんな彼女を「成功した実業家?」などと誤解する政治家たちが馬鹿に見えます。

ホテルの従業員たちもそれぞれ見せ場を作って貰って得していますが、最も面白いのはSusan Kellerman(スーザン・ケラーマン)演じる「フロア担当世話係」です。彼女は客の所持品を盗み見て秘密を嗅ぎ廻るのが趣味。デパート社長Timothy Huttonに鼻薬を嗅がされ、Queen Latifahの部屋を捜索します。そして、Queen Latifahがニューオーリンズの縁者に出すべくして書いた手紙を読み、彼女に迫りつつある死を知ってしまいます。Queen Latifahが「私の持ち物を調べたの?」と聞くと、平然と「私は全ての部屋を調べてます。許して下さい」と答えます。これ以後、Susan Kellermanはそれまでの冷たい態度をがらっと変え、Queen Latifahのファンになってしまうのが可笑しい。

この映画の弱点は悪役を務めているTimothy Huttonです。デパート社長という貫禄がなく、ワンマンの経営者というよりケチなヤクザにしか見えません。彼の存在が希薄なので、全てにおいてQueen Latifahが彼を打ちのめすのが当然に思え、スリルが醸成されません。

この映画の最後で登場人物たちのその後の生活が説明されます。お粗末なCTスキャナによって誤診した医師は、仕事を辞めヒマラヤ山地に行って僧侶になったとか、スパイが得意な世話係Susan Kellermanは私立探偵になって事務所を開いたとか、常に携帯電話で話していたデパートのマネジャーは電話しながら車に轢かれて死んだとか(道路に白墨で死体の後がなぞってあり、警官がそれを眺めている)。上段で貶したTimothy Huttonですが、最後にやっと得点を稼ぎます。彼は浮気がバレて財産のほとんどを妻への慰謝料として取られ、残りも何たら云う組織に取られてすってんてんになり、医師の後を追ってヒマラヤに行き、これまた僧侶になったそうなのです。その写真の彼は朗らかに笑っています。これが可笑しかった。

「余命三週間」が本当なら、どう物語の結着をつけるのか興味深いところでした。しかし、旧型CTスキャナの不備による誤診と分り、Queen Latifahはチェコまで彼女を追って来たLL Cool Jと結婚し、二人で念願のビストロをニューオーリンズにオープンします。開店日にはチェコのシェフGérard Depardieuばかりか、TV料理番組の人気者Emeril Lagasseまで駆けつけます。徹底的に嘘っぽいハッピーエンド:-)。

(December 15, 2006)





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