[Poison] The Green Mile
『グリーンマイル』

【Part 2】

黒人死刑囚が到着した時、先導の看守Doug Hutchisonは"Deadman walking! Deadman walking, here!"という文句を繰り返します。この文句は映画'Dead Man Walking'『デッドマン・ウォーキング』(1995)では処刑室に向う時に発せられました。間もなく処刑されるとはいえ、まだ生きている人間を死んだものとして扱うとは残酷です。迎えたTom Hanksは苦々しげに「もういい(止めろ)」と制止します。この刑務所では処刑前にもこの文句は聞かれません。『デッドマン・ウォーキング』も『グリーンマイル』も、どちらもルイジアナ州の刑務所が舞台です。本当は州の規則とか慣習で定められているだろうと思うのですが、映画でこうまちまちだと困りますね。

Part 1で「半分は気持ちのいい映画」と書きました。Tom Hanksと彼の仲良しの同僚達をめぐる筋だけをとればとても心暖まる物語ですが、(処刑シーンと)残酷な看守Doug Hutchisonの行動、ひねくれ荒んだ心の死刑囚の邪悪な存在による暗い影によって、あとの半分は気持ちがいいとは云い切れない物語になっています。多分、それがこの映画の評判を高めなかった原因ではないでしょうか?この映画を一言で云えば"intense"(強烈な)という感じですが、いい意味でも悪い意味でも"intense"なのです。

[Poster]

私個人としては、この映画のポスターにケチをつけたいと思います。御存知のポスターはここに掲載したTom Hanksの役の異様に人工的な肖像画です。'A.I.'『A.I.』のJude Law(ジュード・ロウ)みたいに、まるでロボットではありませんか。これが原因で私はこの映画を観に劇場へ行かなかったのでした(ホントの話)。ホラー作家のStephen King(スティーヴン・キング)原作というのも、二の足を踏んだ要素です。私はホラーが嫌いなので…。しかし、黒人Michael Clarke Duncanが奇跡的治療をする以外は、超自然的要素はなく、これはホラー映画でもありません。

出演者達は南部訛りで喋っていますが、これが南部でなければならない必然性は感じられません。今や、黒人はどこにでもいますし、彼の行なう奇跡はヴードゥーでもありませんし。しかし、医者にも不可能な奇跡を行なうのが黒人であるというのは、黒人が差別されていた南部であればこそ皮肉な結果です。Michael Clarke Duncanは自分の名前も書けず、知恵遅れ児童のように素直ですから、ずっと白人には蔑まれて生きて来たのでしょう。ここで初めて白人看守達から畏敬の目で見られるようになったのですが、そんな彼が無実の罪で死んでいかねばならないというのは哀れです。「邪悪な心を感じることに疲れ果てた」という彼の一言が、わずかでも救いです。

カミさんと一緒にヴィデオを観たのですが、彼女は処刑シーンとハツカネズミを“殺す”シーンの残酷さにわなないたものの、ずっと最後まで観続けました。黒人の死の前後では涙を流していました。それでも、「でも、もう一度観たい映画ではない」と告げました。それがこの映画の弱点でしょう。『ショーシャンクの空に』は、彼女も「いい映画だ」と評価し、私の町のレンタル・ヴィデオ・ショップでも"Popular"あるいは"Favorite"と称する“人気ヴィデオ”の棚に納まっています。この『グリーンマイル』はそうはならないでしょう。

(July 23, 2001)





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