[Poison] Glory
『グローリー』

【Part 2】

この映画に関しては文句のつけようがありません。強いて云えば、主要人物たちがあまりにも立派過ぎるということでしょうか。迷いも恐怖もなく、一直線に突き進んで行きます。それは、最後の砦への集団自殺的攻撃前夜の黒人たちの、ゴスペル・ソングと神を讃える言葉に要約されるのかも知れません。Kingdom(神の国)をこの世に作り上げるためなら、迷ったり恐れたりすることはないと。これは、私のようなクリスチャンでない者には窺い知れない、殉教者の使命感のようです。

音楽監督James Horner(ジェイムズ・ホーナー)とハーレム少年合唱団による音楽も、殉教者を讃える天使の声のように響きます。

結局、終盤の砦攻撃でマサチューセッツ第54連隊は指揮官、総数600名のうち247名の兵士を失います。これがフィクションであれば、半数を失っても砦攻撃には成功したという結末になるところでしょうが、そうはなりません。それどころか、引き続く攻撃によっても砦は落ちなかったことが語られます。つまり、マサチューセッツ第54連隊はその勇名を轟かせることは出来たものの、この砦攻撃では何の役にも立たなかったことになります。この映画には、'The Bridge on the River Kwai'『戦場に架ける橋』(1957)の軍医のような傍観者が出て来ません。新聞記者は登場しますが、彼が第54連隊の全ての行動を目撃しているわけではありません。『戦場にかける橋』の軍医は最後に"Madness! madness!"(狂気だ!狂気だ!)と呟くのですが、この映画に彼がいたら何と云うのでしょうか?

・銃が支給される前、立哨に立つMorgan Freemanは、銃の代わりに木の棒を肩に警戒に当たります。その心意気にジーンと来ます。
・新しい靴が欲しいDenzel Washingtonはサウス・キャロライナ出身のJihmi Kennedyに、「野営地の外に出れば御婦人がbiscuit(ビスケット)とgravy(グレイヴィ)をくれるそうだ。collard greens(コラード・グリーンズ)とcorn bread(コーン・ブレッド)もあるぜ、きっと」と誘惑します。biscuitは日本のビスケットとは異なり、厚くてぽろぽろ崩れるようなパンの一種。gravyは肉汁で作ったソースで、多分ビスケットにつけて食べるのでしょう。collard greensは南部名物の野菜の葉っぱの煮物、corn breadはトウモロコシの粉で作ったパン。いずれも人種を問わず南部人の大好物で、Jihmi Kennedyがむっくり起き上がって涎を垂らして当然の食べ物ばかりです。
・監督とMorgan Freemanの回想によれば、Denzel Washingtonが鞭打たれるシーンは、スタッフ・キャストにとってこの映画の中で最も困難な撮影だったそうです。父祖の奴隷時代を想起させるため、誰からも冗談一つ出なかったとか。
・クライマックスの南軍の砦は"Fort Wagner"(ワグナー砦)というもので、サウス・キャロライナ州随一の商業港チャールストンの喉元を完璧に防御していました。
・いよいよ砦に決死の攻撃に出発する時、以前いがみあった白人の部隊が両側に勢揃いしてマサチューセッツ第54連隊を見送り、"Give'em hell, 54th!"(南軍の奴らをやっつけてくれ、54連隊!)と叫びながら軍帽を振り廻します。泣かせます。この時、海へ向って進んで行進する54連隊のシーンは、監督が最も気に入っている場面だそうです。
・監督Ed Zwickは、「この映画では至る所でスモークを焚いた。野営地の料理の蒸気や工場の煙であったり…」と云っています。スモークは発煙筒を振り回して薄い煙幕を出す方法で、普通は霧や夜霧、室内にこもるタバコの煙などの役をします。何もしないとすっぽんぽんの味わいのない画面になるところに、遠近感や生活感、情感などを付け加えてくれます。
・白人兵士の給与が月13ドルであるのに対し、黒人兵士は10ドルと差をつけられたため、54連隊の兵士たちは小切手を破いて受け取りを拒否します。これがその後どうなったかは映画には出て来ませんが、ずっと白人・黒人の給与の差は改善されず、1964年4月になってやっと黒人も13ドルとなり、18ヶ月分がまとめて支給されたそうです。
・最後の字幕は、マサチューセッツ第54連隊の勇敢さに感銘を受けた合衆国政府が新たに黒人兵士を募り、180,000名余が応募したと伝えます。
・この映画でアカデミー助演男優賞を得たDenzel Washingtonはこう云っています、「自由というものは、家父長的存在からわれわれに与えられるものではない。自由は、血を流して獲得すべきものだ。学校ではそう教わらなかったが…」と。

(September 29, 2007)





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