[Poison]

The Fugitive Kind

『蛇皮の服を着た男』

【Part 2】

白黒撮影が素晴らしいのですが、いくつか気になる個所があります。先ず、Joanne Woodwardが墓地へ誘い込んでMarlon Brandoに手を出させようとするシーン。道路を通過する車によって二人が照らし出されるのはいいのですが、背景の森に強烈な照明があてられていて、ヤケに明るい。あんな街灯はあり得ないし、この田舎町の墓地に街灯があるとも思えない。

Marlon Brandoが「人間にはいくつかの種類がある」と話し出し、「一つはどんな場所にも属さない種類だ」と自分のことを定義します。映画の題名のように「"fugitive kind"=逃亡する種類」とは云いませんが、まあ大事な台詞です。Marlon Brandoはバスト・サイズで捉えられ、ワンカットで長台詞を喋ります。この時、カットの最初の方では彼の顔が暗く陰になっていて、話す途中から次第に照明が熱くなって来て、最後には顔だけ露出オーヴァー一歩手前ぐらいの光量になります。何か、神々しさを与えたかったのかも知れませんが、この処理はちとやり過ぎだと思います。

上の二例は撮影監督の暴走ではなく、監督のSidney Lumet(シドニィ・ルメット)の責任であろうと思われます。彼がカメラワークについて語った文献を読むと、彼はレンズや照明についてかなりうるさい方なのです。例えば、この映画では「Marlon Brandoには極力望遠レンズを使った。被写界深度が浅いので目だけシャープになって耳や後頭部などはややぼけ気味になる。これによって彼の上品さと優しさが出せる。Anna Magnaniの役は、最初は手強く、辛辣な性格なので通常のレンズで撮り、彼女がMarlon Brandoに次第に惹かれるにつれ望遠系になり、最後にMarlon Brandoと同じ望遠レンズになる。彼女は人生を変え、Marlon Brandoの世界に入るからだ」と云っています。先程の照明については書かれていませんが、これほどレンズワークに拘る人であれば照明についてもうるさかった筈です。

主人公達は異常ではないのですが、Marlon BrandoとAnna Magnaniの密通に至るまでの過程が、非常に緊迫して描かれるので、そう気楽に観られる映画とは云えません。しかし、それは二人の役者の感情の機微を巧みに表現する演技による緊迫感です。異常な人物を観させられる圧迫感とは完全に異なります。これを達成したのはSidney Lumetの功績でしょう。彼の代表作'12 Angry Men'『十二人の怒れる男』は、本作の二年前の映画でした。

'The Long, Hot Summer'『長く熱い夜』は、これまたミシシッピ出身のWilliam Faulkner(ウィリアム・フォークナー)原作の小説の映画化ですが、あちらも流れ者の話でした。あちらは冒頭で放火の濡れ衣を着せられ町を追放されます。いつでも流れ者は苛められ、罪をなすりつけられます。それだけ'Deep South'(深南部)が排他的、保守的だというわけです。ミシシッピ出身の両作家が書いているのですから間違いないでしょう。こちらの『蛇皮の服を着た男』の場合は、嫉妬した夫の友達がシェリフですから、ことは最悪です。火事になってシェリフがホースを持って駆け込んで来ますが、何故か火を消さないで、Marlon Brandoを水圧で火の燃え盛る方へ押しやって彼を殺してしまいます。こういう排他的要素が10年後の'Easy Rider'『イージー・ライダー』に引き継がれていくわけです。

(April 15, 2001)





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