[Poison]

They Won't Forget

(未)

【Part 2】

南部の町の弁護士は、黒人掃除夫に教授Edward Norrisが疑わしいと証言するように唆します。「北部の連中は、教授を助けてお前を死刑にしようとやって来るんだぞ」と脅すので、黒人は頷くしかありません。彼は法廷で偽証しますが、弁護側から「あなたの証言一つで教授は死刑になるんですぞ!」と云われ、恐ろしくなって偽証を撤回します。この映画で、唯一いい南部人はこの黒人だけです。

検事とその取り巻きは、状況証拠だけで教授を告発し、新聞記者を使って市民の怒りをかき立てます。ビジネス・スクールの校長は弁護士を介して黒人の偽証を迫ります(北部人の教授などどうだっていいという態度)。殺されたLana Turnerの兄弟や親戚は最初から復讐の血に飢えています。

南部人のうち黒人にだけ良心があり、南部の白人は全て冷酷無情という風に描かれているわけで、これを南部で上映したらスクリーンに腐れトマトをぶつけられるのは必定だったでしょう。

後に南部で起った公民権運動がらみの事件を調べていると、K.K.K.などはどちらかというと黒人には好意的で、黒人を挑発して運動を助けようとする白人、特に北部から来た白人、その中でも特にユダヤ人を憎んでいたことが分ります。この映画はK.K.K.とは無関係ですが、それでも黒人を助け、北部の人間を血祭りにあげようという点では底流は同じです。まして、モデルとなった事件の犠牲者はユダヤ人でしたから、ぴったりと符合します。

ある陪審員の上着のポケットには、「死にたくなかったら有罪にしろ」というメモがいつの間にか入っています。結局、「有罪、死刑」の宣告が下ります。最高裁は「裁判の正当性に問題は見当たらない」という理由で上告を棄却しますが、直接証拠が一つもない点は看過されたようです。

良心派の知事は教授を電気椅子に座らせず、「終身刑」に変更しますが、結果は同じでした。教授が刑務所に送られる途中、殺された娘の兄弟、親戚、仲間、暴徒の集団が列車を止め、教授を殺してしまうからです。こういう事態を避けるには州兵百人ぐらいが列車に乗っていなければいけなかったでしょう。

南部の排他性を告発する映画としてはいいのかも知れませんが、非常に後味が悪い。みんなで寄ってたかって無実の人間を死刑にするんですから酷いものです。最後に地方検事が州上院議員に歩を進めることがほのめかされるに至っては、『悪い奴ほどよく眠る』的不快感を抱きます。

撮影、演出は概ね悪くないのですが、一点、拡声器の大写しに裁判の実況放送を重ねた三つのシーンは、処理として芸が無く、映像としても醜悪だと云わざるを得ません。映画製作の大企業がこんなアイデア不足のシーンをパスさせたこと自体が疑問です。

(May 03, 2003)





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