[Poison] Flywheel

【Part 2】

私はクリスチャンでも仏教徒でもイスラム教徒でもユダヤ教徒でもないのですが、Kendrick兄弟によるこれまでの三作で必ず泣かされてしまうのが不思議です(現在彼らは第四作を製作中で、多分第五作も出現するでしょう)。

彼らの作品には「回心」(罪や生活を悔い改めて信仰に心を向けること)と「神に祈ること」を勧める人物が必ず出て来て、彼らの真剣な「説教」(教理を説いて人を導くこと)も心を打つのですが、その内容は各映画の主人公にとってヒントにはなっても、その話だけで信仰に目覚めるわけではないんですね。当人の心に覚醒すべき理由と解答が備わっており、当人がそれを発見するのです。

日本の無宗教(というか多宗教)の人間(私を含む)には想像が難しいのですが、欧米の子供たちは親に連れられて毎週教会に行き、日曜学校に通ったりもして、盲目的にであれ元々信仰心は植え付けられているわけです。成長して信仰心が薄れたり、神の存在に疑問を持ったりすることがあっても、「回心」はさほど難しいことではないのだと思います。都会から故郷に戻るようなものではないでしょうか?われわれ無宗教な人間がいきなり神に祈るのとは違うわけです。

祈りも、日本人が「御無事を祈ってます」などと云うほとんど口先だけの「祈り」とは違うんですね。真剣で真摯で誠実な祈りです。当人の周囲の人間が当人のために祈り、それに当人が反応します。その飾らない連帯感が感動的です。羨ましいと思います。

アメリカ映画のキーワードの一つは"I'm proud of you."という台詞だと思います。この『アメリカ映画“南部もの”大全集』において、いくつかの作品でそれを指摘して来ました。この映画では妻Janet Lee DapperもAlex Kendrickの正直・誠実な商法がTVで紹介された時にこの台詞を云いますが、Alex Kendrickの父が、息子の信仰への回帰を讃える際も"I'm proud of you, son!"と云います。これを「お前が誇らしいよ」とか「お前は自慢の息子だ」、「お前のような息子を持って幸せだ」と訳すと、グーンと有難味が薄れます。"I'm proud of you."は日本語に置き換えられない感情です。日本には「私の誇り」という表現は無いからです(少なくとも私はそう思います)。“日本の誇り”と云う表現はあっても、個人レヴェルの“誇り”は全く無いと云って過言ではないでしょう。戦争や試合から戻った息子に、アメリカの父親や母親は"I'm proud of you, son!"と云います。アメリカ人にとって「お前は私の誇りだ」というのは最大級の褒め言葉です。戦争で負傷しようが、試合に負けようが、当人がベストを尽くしたことを認めるのです。私は(アメリカ人でもないのに)この台詞を聞くとジーン!としてしまいます。

なお、劇中に中古車販売のTVコマーシャルが出ますが、アメリカの地方のコマーシャルは全くこういう風です。タレントを雇ったりせず、オーナーやオーナーの家族(孫などを使うこともある)が宣伝文句を喋ります。みな南部訛り丸出しです。

この'Flywheel'は製作者たちにとって処女作でしたから、まだ演技・演出・編集などに未熟な点があります。しかし、鑑賞の妨げになるほどではありません。二作目の'Facing the Giants'になると、フットボールの試合が中心なだけにスケールも大きく、作品にも重みが出て来ます。三作目の'Fireproof'は消防士の結婚生活というテーマなので、この'Flywheel'に似たこじんまりしたスケールに戻っていますが、演技・演出・撮影は格段に進歩しています。第四作が楽しみです。

(February 10, 2010)





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