[Poison] The Flame of New Orleans
『焔の女』

【Part 2】

名匠ルネ・クレールに憧れたMarlene Dietrichは、監督がホームシックにならないよう、自家製フランスパンやフランス・コーヒーをセットで御馳走したそうです。実はルイジアナ州はもともとフランス領で、ナポレオンの時代にアメリカ政府が購入した地域です。地名もフランス語が多く、フランス系の食べ物も多いので、フランスから来たばかりの監督には一番馴染める土地だったでしょう。実際にはルネ・クレールがスタッフを冷たく扱うので、Marlene Dietrichは気を悪くし二度と組むことはなかったそうです。

アメリカ映画は結婚式直前に花嫁を攫う映画が好きですね。大抵の場合、花嫁はデクノボーの男を捨て、美男と逃げ去ります。『卒業』もそうでした。最近の『ウェディング・プランナー』もそうです。この『焔の女』では、観客は「この美女がこんなハゲの年寄りと結婚するの〜?マジ〜?」と思っていますから、美男で活発な船長が現われれば、もう筋は読めてしまいます。ハゲの男は単に話をややこしくするだけの役割に過ぎません。

一人がハゲの年寄りだから筋が読めてしまうのであって、これをBruce Cabotとおっつかっつの若い美男、例えばTyrone Power(タイロン・パワー)あたりにしたらどうだったでしょう?これだと、Tyrone Powerを捨てる理由が確固としてなければなりません。つまり、この映画では「ハゲの年寄りだから捨てて当然」という観客との暗黙の了解に寄りかかっているわけで、「なぜ、ハゲの年寄りじゃ駄目なのか?」について納得出来る理由を示していません。

しかし、ハゲであると否とを問わず(ハゲの方、すいませんねえ)、私はこういう見捨てられる男に同情します。見捨てられた男の立場に立ってみましょう。処々方々から親戚友人を招き、神父だの付添人だのも用意しました。式が終ってからの披露パーティもどっかに会場を借り、豪勢な仕出しも注文済みで、多分弦楽四重奏団なども手配してあったことでしょう。新婚旅行の手筈も万端整っていたと思われます。それが、急にオジャンになるわけですから悲劇です。お金が無駄になるからといって、親戚一同でパーティ会場に行き、仕出し料理を黙々と食べるという気にはなれんでしょう。弦楽四重奏などくそくらえです。立場もないし、怒り心頭に発して狂ってしまうかも知れません。で、この見捨てられた男が殺人鬼であったとか、実はホモで世間体を繕うための結婚だったというのなら、まだ話は分かります。大抵の場合、そんな難点はないのです。単にデクノボーで美男じゃないだけなのです。デクノボーで美男じゃない代表として、こういうシナリオを書く連中は許せません:-)。

(January 28, 2002)





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