[Poison] The Firm
『ザ・ファーム/法律事務所』

【Part 2】

雇い主が社員を見張るために住宅に盗聴器を仕掛け、電話も全て録音されているというのは凄い。その実態を知ったTom Cruiseが、帰宅してステレオのヴォリュームを一杯に上げ、妻の耳に何か囁くところは素晴らしい。彼の言葉は聞こえませんが、「盗聴されているから、大事なことは部屋で喋るな」と云っていることは分ります。見る見るうちに妻の表情が変わり、あまりのショックに愕然とします。このサイレント映画風処理は、ヒッチコックの'North by Northwest'『北北西に進路を取れ』で、空港の騒音のため大事な会話が観客には聞き取れないという巧みなテクニックの盗用です。でも、上手く盗んでいます。

Tom Cruiseがケイマン諸島である女性の巧みな誘惑に負けるシーンは、男性として見てて辛いですね。焚き付けられた火を消すのは難しいという男性の生理が判るので。

その一夜の過ちが恫喝のネタにされた時、彼は正直に妻に告白します。その辛さと、黙っていても済むことを何故彼が告白したかに気付かず、妻は怒り狂います。映画には、男性の意図を解さず、逆に邪魔だてする女性というのがしばしば登場します。常に女性の近視眼的短絡思考が災いするというパターンです。まあ、女性にそういう傾向があるのは事実としても、「またか!」という思いです。この映画の場合は結果的に女性が男性を助けるので、バランスは取れているのですが。

妻の方がスリリングな冒険をしているのに、Tom Cruiseの方は町の中を殺し屋に追われて走り廻るだけというのは寂しい。何も彼もピストルを発射しろというわけではありませんが、もう少し「なるほど!」と感心出来るような殺し屋との対決を見せて欲しかった。

シカゴのマフィアを相手に、自分と妻の身の安全を確保する頭脳プレイはいいですね。「さすが、弁護士上がりの作家のアイデアだ!」と納得出来ます。

Gene Hackmanは脇役としては一番出番が多いのですが、こんな悪どい企業に長年勤めたにしては、随分甘く抜けている感じの役になっており、あまり印象に残りません。印象で云えば、すぐ死んでしまうNick Nolteが強烈です。Holly Hunterは儲け役を楽しんでやっています。Ed Harrisは少ない毛を剃って頑張っていますが、一本調子で味が出ていません。

若い夫婦がメンフィスへ来る時と去る時の引っ越しにはU-HAUL(ユーホウル)というレンタルの小型トレイラーが使われています。U-HAULは全国チェーンの会社で、アメリカ人にはロゴを見ただけで引っ越しと判るシーンです。二人の荷物がもっと多ければ、普通免許で運転出来る中型コンテナ車を使ったところでしょう。

(March 15, 2001)





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