[Poison] Cape Fear (1962)
『恐怖の岬』

【Part 2】

オリジナルと1991年のリメイクでは次のような特徴・相違点があります。

・製作者
 1962年版:Gregory PeckとRobert Mitchumほか
 1991年版:Robert De Niroほか

・色彩
 1962年版:白黒
 1991年版:カラー
 *最後の格闘は白黒の方が恐い。しかし、リメイクのアクションの連続の方が凝っている。

・映画の長さ
 1962年版:105分
 1991年版:128分
 *オリジナルは22分も短いのですが、かなり濃い内容でぐいぐいと観客を引きつけます。

・過去の事件
 1962年版:メリーランド州ボルティモア
 1991年版:ジョージア州アトランタ

・悪人の刑期
 1962年版:8年
 1991年版:14年
 *オリジナルでは成人女性への暴行ですが、リメイクでは未成年をレイプしたので罪が重い。

・主な舞台
 1962年版:ジョージア州サヴァナ
 1991年版:ノース・キャロライナ州New Essex(架空の町)

・撮影地
 1962年版:ジョージア州サヴァナ、ハリウッド(室内と終盤の格闘)
 1991年版:フロリダ州、ジョージア州サヴァナ

・弁護士
 1962年版:娘の身を案じてごろつきを雇うまでは清廉潔白
 1991年版:先入観で依頼人のためにベストを尽くすことを怠り、不倫の過去もある
 *1962年版では善人対悪人の対決になっているので、観客は弁護士に肩入れしますが、リメイクではどっちもどっちという感じ。

・弁護士の娘
 1962年版:まだ少女という感じの幼さで、性犯罪のターゲットにされるのが痛々しい
 1991年版:ハイ・ティーンに見えるほど色気もあり、平然とマリファナを吸ったり、初対面の男にキスも許すほど
 *リメイクの娘は悪人に襲われても仕方ないかという感じ:-)。

・弁護士一家の待ち伏せ
 1962年版:Cape Fearのハウスボート
 1991年版:自宅

・私立探偵
 1962年版:悪漢をハウスボートに誘導したら消滅
 1991年版:町にある弁護士の自宅で殺される
 *1962年版の探偵は、格好いいがあまり活躍しない。

・悪人のCape Fearへの尾行
 1962年版:他人に運転させて探偵の車を尾行
 1991年版:家族の車の車体にぶら下がって超人的尾行
 *リメイクは非常に嘘っぽい。この超人的行為をさせるために、主な舞台をジョージア州からノース・キャロライナ州に変えたんですね。そうでないと、サウス・キャロライナ州を縦断しなければならなくなり、車体にぶら下がるには遠過ぎますから。

・悪人の最後
 1962年版:殺人罪でシェリフに引き渡される
 1991年版:溺死

オリジナル版の脚本・演出の良さの見本は、家族の飼い犬が殺されるシーン。朝、家の外の生け垣付近で犬がワンワン吠える声。電話のベルが鳴り、Gregory Peckが受話器を取って警察署長と話をする。犬の吠え声がずーっと続く。突如、犬の声が力ないキャンキャンという風に変わる。Gregory Peckは署長との話を中断し、表に走る。生け垣の近くに毒を飲まされた犬が横たわっていた。このシーンは電話の会話と吠え声の音声の二種類を並列させ、観客に会話を聞かせる振りをして実際には犬の吠え声の変化の方が重要だったという、知能犯的映画演出の素晴らしいサンプルです。この見事な脚本・演出を超えることは出来ないと諦めたのでしょうか、リメイクでは泣きじゃくる妻が犬の最期を説明するだけに留めています。

オリジナルとリメイクに共通する疑問点。娘の身を案じた主人公の弁護士は、悪人に手を引かせるべくごろつきを雇って悪人を襲撃させます。法によって立つ弁護士が法を破ってしまったわけです。悪人が依頼した弁護士は直ちにA.B.A.(American Bar association、米国法曹協会)の倫理調査委員会に訴え、主人公の弁護士の資格を剥奪させようとします。A.B.A.のリアクションは早く、弁護士は数日後に開催予定の委員会に召喚されます。問題はここからです。主人公の弁護士は大都市で開催される委員会に飛行機で出向いた振りをして、実はCape Fearのハウスボートに送った妻子に合流し、囮の妻子目当てに悪人がやって来るのを拳銃片手に待ち受ける作戦に出ます。ところで、召喚された倫理委員会をすっぽかしていいものでしょうか?そりゃ、弁護士の資格より家族を守ることの方が大事です。ましてや、ごろつきを雇って悪人を襲撃させたのは事実であり否定出来ません。多分、例によって宣誓の上証言させられるでしょうから、真実を云っても嘘を云っても(偽証になる)、主人公は資格剥奪を免れないでしょう。それなら、一生悪人に怯えて暮らすよりは、悪人の息の根を止めた方がいいと考えたのかも知れません。しかし、悪人とのフィジカルな闘いには勝っても、家長が弁護士でなくなった一家の暮らしは惨めなものとなり、結果的に悪人の復讐は功を奏することになります。

悪人は殺人まで犯したわけで、彼の犯行を立証出来れば主人公の弁護士は資格剥奪を免れるでしょうか?いや、悪人の犯罪と弁護士の犯罪は別扱いでしょう。ごろつきを雇って人を襲わせた弁護士も悪いということになり、やはり主人公は弁護士稼業を続けることは出来なくなると思われます。映画館の場内灯が点いた時(あるいはDVDが終った時)、観客はハッピーエンドで胸を撫で下ろすことでしょう。しかし、私に云わせれば、この映画は全くハッピーエンドではないのです。

結局この映画には"Cape Fear"(恐怖岬)は登場しません。「岬」と云うと、陸の突端に立つ灯台、崖に打ち寄せる波しぶきなどを連想しますが、出てくるのは単に"Cape Fear River"なる川です。Gregory Peckの(タイトルに関する)作戦は成功したようですが、内容とタイトルの齟齬によって映画のイメージが曖昧になった気がします。

(September 11, 2007)





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