【Part 2】
この映画の舞台のアーカンソー州ではありませんが、その隣りのルイジアナ州では1983年まで、黒人の血が1/32混じっていると出生証明書には「黒人」と記されたそうです。曾祖母が黒人だと、当人の肌の色には関係なく「黒人」と分類されたわけです。この映画では母親が黒人ですから、そういう分類では完璧に「黒人」になってしまいます。
シカゴに出発する前、Robert Duvallは車のサイド・ミラーで自分の顔を見つめつつ"You, blue-eyed nigger!"(青い目をした黒ん坊め)と独り言を云います。ショックだったでしょうねえ。まあ、彼が黒人差別主義者でなくてよかった。それだと、自殺しなくてはならないほどの自己撞着になってしまいますから。
その後、黒人の親子連れを撥ね飛ばしそうになったり、黒人との接触がやたら出て来ます。Robert Duvallは、まだ白人としての意識から抜け出られませんが、しかし努めて黒人に丁寧に対応しようとする点が微笑ましい。
まだ冷たい関係だった時のJames Earl Jonesが、おかしくてたまらないという風に笑って、「何が可笑しい?」と聞かれて、"What do you feel about...being colored?"(黒人になった気分はどうだね?)と云います。これは痛烈です。Robert Duvallは差別主義者ではなかったので、彼をここまで傷つけることはないのですが。
しかし、いずれにしても南部の白人が一様に持っている黒人蔑視の気持ちはRobert Duvallの心の底にもあった筈です。偏見の持ち主(と教養の無い人々)を"redneck"(赤首)と云いますが、赤首の白人が黒人であったという、随分カラフルな人の話なのですね、これは。
ありそうもない話ですが、このストーリイはアイデアの勝利だと思います。正面から人種差別を攻撃するのではなく、あなただって黒人かも知れないという鏡を突きつけているわけで、これは非常に知的なキャンペーン方法です。
唯一残念なのは、主人公が家に戻って家族に真実を告げるシーンが無いことです。妻、息子、娘は真っ青になるでしょう。Robert Duvall自身が隠していたわけではないので、彼が悪いわけではありません。彼を責めることは出来ません。しかし、息子や娘にも黒人の血が混じっていることは、泣いても笑っても事実です。それを彼等がどう受け止めるかは、多分あと一時間ぐらいかかるドラマになってしまうので諦めたのでしょうね。
(March 20, 2001)