【Part 2】

この映画ではケンタッキー州の人々がカリフォーニアとオレゴンの区別もつかないような無学で、火葬など異常だと感じるような時代遅れに描かれています。これは、ケンタッキー州の人々をレッドネックという南部の類型に嵌めようとした脚本・監督の偏見でしょう。確かにケンタッキー州は土地が余っているようで、墓地のスペースも潤沢にあり、火葬にするなどは無駄な出費と云えそうです。しかし、それはオレゴン州であっても大都市以外では同じ条件ではないか？と推察します。

お棺（遺体はなく、スーツが入ってるだけ）を埋める際、本当は静々と地中に下ろされるべきなのに、葬儀屋の不手際で何度もガターン！とお棺が大巾に落下します。遺体が入ってないからという云い訳はあるのせよ、これもケンタッキー州の人々の行動を滑稽に描いて笑いを取ろうとした意図が見え見えです。

土地や葬儀屋によって違うのかも知れませんが、私が参列したこちらの体験では、人々は牧師の弔辞が終り、お棺に献花した後埋葬を待たずに帰ってしまいます。生きている人々の別れも、「さよなら」と云ったらアメリカ人は左右に別れてさっさと歩み去ります。日本人のように振り向いて最後まで別れを惜しむなどということをしません。埋葬の場合も同じなのだと思ったことでした。

重箱の隅をほじくるようで気が引けますが、いくつか脚本の強引さで気になる部分があります。

・Kirsten Dunstは、映画ではホームタウンのNashvilleとElizabethtownを、まるで隣町であるかのように行ったり来たりしていますが、地図で見ると片道2〜2.5時間のドライヴが必要な距離に見えます。これは気軽にドライヴ出来る距離ではありません。

・Kirsten Dunstは一夜にして手書きの地図と音楽CDによるドライヴ・ガイドのセットを作成し、Orlando Bloomに渡しますが、これは不自然です。観光名所間のドライヴ時間を計算し、それに合わせた音楽を選曲・編集し、新たなCDに焼く必要があります。一夜で出来る芸当ではありません。手書きの地図はスクラップブックを兼ねていて、写真や絵などが散りばめられています。これだって作成に一週間はかかるでしょう。「たかが映画じゃないか、目くじらをたてるなよ」とヒッチコックが云いそうですが…。

・映画の最後の“名所”は「世界で二番目に大きいファーマーズ・マーケット」です。ファーマーズ・マーケットは本来は朝市の類いなのですが、靴を売る商人などがいるので、農民だけのマーケットでも朝市でもないようです。Q&Aサイトに「これってどこにあるの？」という質問が沢山寄せられていて、本当は実在しない架空の“名所”だそうです。しかし、ケッタッキー州をスタートしたドライヴは、テネシー州、アーカンソー州、オクラホマ州、カンザス州を通過していますから、その西にあるという想定の筈です。「そこで赤い帽子の娘を探しなさい」というのがKirsten Dunstの指示です。そこで彼女が赤い帽子をかぶって待っているということは、彼女も三つの州を横断してこの場所に来ているわけです。しかし、画面で見る限り、このマーケットは遊園地に近い大きさで、相当な人混みです。ここで赤い帽子の娘を探すなんてとても無理に思えます。もしかするとOrlando Bloomは彼女を見つけられない恐れもあるのに、Kirsten Dunstはよくもまあ三つの州を横断してやって来たものです。信じられません。

・Kirsten DunstはOrlando Bloomが車でオレゴンに戻るものと決めつけていますが、彼は実は長時間ドライヴをする必要などなかったのです。「骨壺を携帯した空の旅」というサイト（"US Transportation Security Administration Info": http://www.mainelyurns.com/air-travel-with-cremated-remains-tsa.html）を見ると、骨壺の機内持ち込みあるいはスーツケースなど携帯品に入れて預けることは禁じられていません。X線でのチェックさえ通ればいいことになっています。「旅客機会社によって条件が異なる場合もあるので、前もって調べておく方がよい」と書かれています。Elizabethtown発着のローカル便では例え断られても、近くの大都市Louisville（ルイヴィル）まで行けば、骨壺を携帯して飛行機でオレゴンまで（母や妹と一緒に）帰れる便が見つかった筈です。彼がわざわざ車を運転する必要はなくなり、この物語のロマンスは結着がつかなくなることになります。

(July 16, 2011)