[Poison] Distant Drums
『遠い太鼓』

【Part 2】

Part 1で、兵士の一人が鰐に噛み付かれた時の叫び声について触れました。兵士が出す「アーア〜ッ!」というかん高い絶叫は'Wilhelm scream'(ウィルヘルムの叫び)と呼ばれる有名なもので、何とその音声はこの映画のあと半世紀の間に70回も再利用されているのだそうです。

実は、鰐に食われる兵士がWilhelmという役名だったわけではなく、その叫びがその俳優の声でもないという妙な話なのです。定説となっているお話をまとめますと、この映画の撮影終了後、ワーナー・ブラザースのスタジオで数人の俳優による叫び声の録音が行なわれました。六つほどのテイクが選ばれて残っているそうですが、この映画で使われたのはSheb Wooley(シェブ・ウーリィ)という俳優(兵士役の一人)の叫び声でした。このSheb Wooleyの役は名前もない端役で、この時には'Wilhelm scream'という名前などつきませんでした。

その後、1953年になって'The Charge at Feather River'(フェザー川の突撃)という西部劇が作られました。ここで兵士の一人Wilhelmが馬上でパイプに煙草を詰めている時、インディアンに撃たれて叫びながら落馬します。この時の叫び声もSheb Wooleyが'Distant Drums'『遠い太鼓』のために録音したものが使われました。この俳優の役名Wilhelmが叫び声のタイトルとなったわけです。

この'Wilhelm scream'を再発掘したのは'Star Wars'『スターウォーズ』(1977)の効果音担当者で、Luke(ルーク)とPrincess Leia(レイア姫)がロープで二人一緒にジャンプする少し前、Lukeに撃たれて落下する帝国側兵士の叫びとして使われ、その後、効果音の世界の冗談のように'Star Wars'シリーズ、'Indiana Jones'シリーズなどに毎回使われています。

'Wilhelm scream'を聞きたい方は、http://www.folkbildning.nu/wilhelm.wav(QuickTimeフォーマット)、'Wilhelm scream'を用いた映画の集大成を見たい方は http://www.digitaldj.jp/2006/11/30_120000.html#more をどうぞ。

さて、映画そのものですが、私は『八甲田山』(1977)を想起しました。『八甲田山』の敵は寒さであって、この映画のように敵に追われるわけではありません。しかし、'Distant Drums'が追われる一方、逃げる一方であるという情けない状況は、『八甲田山』がルートを見失って彷徨する哀れな状況にオーヴァラップします。つまり、西部劇の勇ましいムードは全くなく、インディアンに圧倒されっ放しなのです。

この映画でセミノール・インディアンを演じたのは、本当のセミノール・インディアンたちだったそうです。上に述べたように、この映画のインディアンは普通の西部劇と異なり、バタバタ射的のように殺される惨めな存在ではありません。だからこそ、彼らの協力も得られたのでしょう。

ところで、兵士たちは短時間でカヌーを六艘ほど作ってしまいますが、いくら枯れた木を使ったとしても少し早過ぎやしないでしょうか?手斧や鉋(かんな)を持って歩いていたわけでもないのに。

最後の水中の決戦で、Gary Cooperが自分よりずっと若い酋長に勝っちゃうのも(お約束とはいえ)、ちょっと不自然。Gary Cooperは見るからに老けていて肺活量もなさそうだし、酋長に水中に引き摺り込まれたら呼吸出来なくて死んじゃったと思うのですが。

Gary Cooperが勝った直後に援軍が到着します。つまり、酋長との一騎打ちは全く無駄だったわけです。十分程待っていれば命を賭けた決闘などしないで済むことでした。行方不明の息子も発見されて連れて来られ、親子再会出来てめでたしめでたし。全然感動しない。

(December 23, 2006)





Copyright (C) 2001-2011    高野英二   (Studio BE)
Address: Eiji Takano, 421 Willow Ridge Drive #26, Meridian, MS 39301, U.S.A.