[Poison] Deliverance
『脱出』

【Part 2】

出発点に着いたところで、極めて短時間に四人の性格が描き分けられています。集落と人々の不気味さもよく出ていて、これからの川下りに不吉な影を落とす。

四人の一人Ronny CoxはBurt Reynoldsの殺人にショックを受け、以後茫然自失となりライフ・ジャケットも着用しない。彼は激流に呑まれて死んでしまう。後に、Jon VoightはRonny Coxの遺体を川に沈める。埋めても良かったのに、何故沈めたのかよく分りません。

Burt Reynoldsは逃げた男に脚を撃たれて重傷。「このままでは残りの二人も殺される」と、Jon Voightが急な崖をよじ登って反撃を試みます。崖の上で一夜を明かすシーンは疑似夜景で撮影されていますが、非常にお粗末な出来栄え。男との対決に、Jon Voightは弓を使う。以前に鹿を撃ち損なった伏線が、ここで活きて来ます。

夜のダムの水面にぽっかり浮かび上がる、死んだ男の腕!一瞬、フランス映画『太陽がいっぱい』のエンディングを想起させますが、これはJon Voightの夢でした。死ぬ前、Ronny Coxは警察に通報するかどうかという議論の際に、「この決断はあんたの一生を左右するぞ」とJon Voightに断言しました。その通り、Jon Voightは無事に家に帰ったものの、以後悪夢にうなされることになります。

「知らんぷり」は誰でもが取りたがる選択なので、Jon Voightの運命は他人事ではありません。恐ろしい経験は永遠に続くことになり、恐ろしさの極みとなります。

(March 21, 2001)


【井原さんのDVD試聴記】

映画通の井原さんには、私の映画サイトの相談役になって頂いています。このところ井原さんが熱中しておられるのはDVDに入っている監督の製作裏話を聞くことだそうです。頂いたメールの転載の御了解を得ました。お楽しみ下さい。

作品自体が驚くほど低予算(当時で200万ドル)で作られたために、映画完成保険にも入っていなかったそうです。そのために、役者達(今では大スターですが…)が危険なスタントも兼ねてました。John Voightがけわしい崖を登るシーンがありましたよね?あれも本人が危険を承知で実際に登っていたとのこと。

このシーンで疑似暗景("Day for Night")の拙さもよく指摘されていますが、川下りのシーンも含めカメラマン(名手のVilmos Zsigmond)とアシスタント二人のみでほとんど全編撮りあげられていたということでした。Zsigmondいわく、「荒涼とした非常に彩度を落とした映像で撮りたかったが、ロケ地が春を迎えていて、とても苦労した」とのこと。このDVDの映像自体はマスタリングも良好で'Easy Rider'と並んでお薦め出来ます。

原作兼脚色を行ったJames Dickeyがラスト付近で保安官役で登場していました。冒頭付近で出てきた"Dueling Banjos"は、もはや古典と化しており、某国営FMでクラシック番組で登場したときは本当に驚きました。

ラストの「驚愕」のショットは、この監督John Boormanの後の作品'Excalibur'『エクスカリバー』で再び再現されています。

(January 07, 2002)


【Part 3】

私もDVDをレンタルし、Special Featuresをチェックしてみました。'Dangerous World of Deliverance'という短編映画(ヴィデオ?)が一本付属しているだけで、製作・脚本・監督・俳優などのコメンタリーはありません。'Behind the Scenes'という文字だけの情報は'Dangerous World of Deliverance'の監督の発言を引用しているので、どちらも似たようなものになっています。以下は双方の内容をまとめたものです。

原作・脚本のJames Dickey(ジェィムズ・ディッキィ)はUniversity of South Carolinaの文学部教授。この映画のBurt Reynoldsのように自然が好きで、カヌーの川下りも得意。ボウ・ハンティングは名人級で、この映画の撮影中Burt Reynoldsに指導し、Burt Reynoldsも数日後にはめきめき上達したそうです。

James Dickeyは「この映画は自然を相手に自分をテストし、自分自身に存在するとは思いもよらなかった隠れた能力を発見する物語だ」と云っていたそうです。監督John Boormanによれば「James Dickeyは、Jon Voight演ずる温厚なビジネスマンが、彼の心の奥底に生まれついての殺し屋の本能があることを、観客に知って貰おうとしていた」とのこと。

この映画はジョージア州のチャタヌーガ川に沿って撮影された。監督John Boormanはこの撮影について「二つのカヌー、二つのゴム筏(いかだ)、四人の俳優、一人のカメラマンとその助手、二人の製作助手と私…の日々であった」と回想しています。もう一人、原作・脚本のJames Dickeも加わっていたわけですが。

どこの保険会社も「この映画の撮影は危険過ぎる」として、俳優を保険の対象にしてくれなかったそうです。事実、撮影は常に危険と背中合わせだったようです。

"Deluxe Edition"と銘打ったDVDだと監督のコメンタリーや俳優たちの録音も聞けるようですが、私がレンタル出来るところには見当たりません。

(April 05, 2008)





Copyright © 2001-2011    高野英二   (Studio BE)
Address: Eiji Takano, 421 Willow Ridge Drive #26, Meridian, MS 39301, U.S.A.