[Poison] The Defiant Ones
『手錠のまゝの脱獄』

【Part 2】

囚人たちはある村で雑貨屋に泥棒に入ることになり、月明かりに浮き上がることを恐れて、白人の顔に泥を塗って黒くします。二人とも“黒い人”になるという皮肉です。

この映画の9年後にHarry Belafonte(ハリイ・ベラフォンテ)が製作・主演した'Odds Against Tomorrow'『拳銃の報酬』では、反目しあった白人、黒人が撃ち合ったあげく、ガスタンクを爆発させてしまいます。鑑識の人間が、「(黒こげで)どっちが白か黒か判らない」と云う一言で終ります。人種差別の虚しさをよく表現したメッセージです。

なお、人種差別問題を含む'To Kill a Mockingbird'『アラバマ物語』が本作の4年後、同じSidney Poitierによる'In the Heat of the Night'『夜の熱気の中で』が9年後ですから、いかに『手錠のまゝの脱獄』が時代に先行していたかが分ります。

二人に食事を施し、感染症で熱を出した白人を看病する女性が出て来ます。やさしく、健気な女性ですが、南部によくある「女一人で生きて行けないタイプ」で、男にすがって違う世界に脱出しようとします。その女性が黒人には嘘の道順を教え、彼を囮にして時間稼ぎを計ります。やさしく、健気だったのは白人に対してだけで、黒人の運命などどうでもいいというわけです。恐ろしい。鎖が切れ、やっと黒人と無関係になった白人ですが、女の嘘を知った途端、黒人との間に生まれた友情に気付き、危険を知らせに追いかける決意をします。ここが少し甘いかも知れません。銃で撃たれたまま夢中で走るほど、黒人を気遣うまでに至っていたかどうか。

貨物列車に黒人が飛び乗り、白人に手を差し出します。このシーンには二人の友情が迸り出ています。白人が体力の限界から倒れた時、もう二人の間に鎖は無いのに、まるで鎖が存在するかのように黒人も列車から転落します。黒人は体力も気力も十分なので、逃げようと思えば逃げられたでしょうに、白人につきあって監獄へ逆戻りする覚悟をします。これもいささか甘いような気がします。まだニュー・シネマのずっと以前ですから、モラル的に二人を脱獄させ自由の身にさせることは出来なかったのかも知れません。

ある風景を写していて、カメラを動かさずにそのまま夜になるとか、夜が明けるとか、ワンカットで時間経過を表現していますが、この手法はリアリスティックな逃亡囚たちの描写と馴染まないような気がします。そこだけ作り物めいてしまいます。

殺人犯かも知れない脱獄囚に頼ろうとする女性の存在というのも想像出来ないし、いきなり大人を撃つ子供というのも信じられません。この辺は疑問点です。

しかし、知的に処理されたメッセージとしては素晴らしく、物語としても97分があっとという間に経ってしまう、出来のいい映画になっています。

(February 25, 2001)





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