[Poison] Death Proof
『デス・プルーフ in グラインドハウス』

【Part 2】

いかし、いくらB級志向でもこの映画の娘たちの会話はひどい。卑語・俗語の連発。Sydney Poitier(シドニィ・ポワチエ)の娘やAlan Ladd(アラン・ラッド)の孫もです。彼女たちはいい教育を受けているようなので、普段はこんな表現はしないでしょうが。

Kurt Russellは奇才Quentin Tarantinoなら、こんな安っぽい脚本でも歴史に残る話題作に変貌させるのではないかと期待して出演したのでしょうが、残念ながらそれは期待外れだったようです。

「登場人物の行動に必然性もなく説得力もない」と書きましたが、なぜKurt Russellがこんな若く美しい娘たちを消そうとするのか、その動機について何の暗示も示されません。怨みでも若さへの妬みでもないようです。Alfred Hitchcock(アルフレッド・ヒッチコック)は'North by Northwest'『北北西に進路を取れ』(1959)で主人公が人違いされる諜報員George Caplan(ジョージ・キャプラン)の役割について詳しい説明などせずに映画を終えてしまいます。架空の諜報員George Caplanは単に物語を転がす切っ掛けに過ぎず、Alfred Hitchcockにはどうだっていいことだったのです。そういう要素を彼は"McGuffin"(マクガフィン)と呼びました。Quentin TarantinoはKurt Russellの存在そのものを"McGuffin"にして、若く綺麗でセクシーな女の子たちを一杯見せたかっただけと云えそうです。つまり、この場合、Kurt Russellはダシに使われただけなのです。

ただ、Kurt Russellがマッチョなだけに、後半彼が射たれてから娘たちの車に追われ、段々情けなく哀れな感じになって行く変化は面白い。これはこの映画の見所の一つです。あとの見所は、「若く綺麗でセクシーな女の子たち」と、Zoe Bellのボンネット上のスタント。これぐらいですね。

撮影監督としてのQuentin Tarantinoの評価は及第点です。破綻はありません。アメリカ映画の撮影監督には、自分でカメラをオペレートするという人は少なく、カメラ・アングルとフレームを決め、照明の指示をするのが役目です。フィルムを装填する人間、カメラをオペレートする人間、露出を計測する人間、フォーカスを送る人間、その他…などがいて、当人はファインダーを覗いてOKを出すだけでいいのです。当節、TVモニターがある場合はファインダーを覗く必要もありません。また、スタント場面やステディ・カム(安定した手持ち撮影を可能にする器具)には専門のカメラマンがいます。だからこそQuentin Tarantinoにも撮影監督が務まったということでしょうが。

なお、この映画はテネシー州では撮影されておらず、第二部の「テネシー編」はカリフォーニア州で撮影されています。本当は、「テネシー編」に出て来る女の子たちはみな映画関係者なので、カリフォーニアを舞台にした方が自然だったと思われます。それが、何故テネシーなのか?Quentin Tarantinoがテネシー出身なんです。それだけが理由だと思われます:-)。

(August 07, 2009)





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