[Poison] Crossroads
『クロスロード』

【Part 2】

で、十字路で何が起るか?本当に悪魔が出て来るんです。ダークスーツで正装した黒人の悪魔。Joe Seneca老人は17歳の時に悪魔と契約し、以後ハーモニカのブルース奏者として有名になったのですが、80歳近い今となっては「契約を破棄したい」と頼みます。悪魔は「まだ契約期間中だから解約は出来ない。しかし、その小僧(Ralph Macchio)がうちのプレイヤーと勝負して勝ったら、解約に応じよう」と云います。「但し、負けたらその時は…」と云いかけると、老人が「俺の命をやる」と云いますが、悪魔はRalph Macchioの命も欲しがります。悪魔の存在を信じないRalph Macchioは「OK」と云い、三人は悪魔の演奏会場へ直行します。

…と、急にこの映画はシュールな世界に突入するのですが、あくまでも映像はリアルな描写に徹していて、スモークをたいたり、おどろおどろしい照明だの、カメラを斜めにしたりという小細工はしません。

悪魔の代表演奏者はSteve Vai(スティーヴ・ヴァイ)で、長髪・皮のズボンというロック歌手風の出で立ち。二人は数小節ずつのバトルを始めますが、実はこの演奏はどちらもSteve Vaiが弾いているのだそうです。舞台裏では同一人が対決しているわけです。Steve Vaiの圧勝かと思われたその時、Ralph Macchioはお得意のクラシック・ギターの曲で挑戦し、軽音楽出身のSteve Vaiも応じますが「よう弾き切れん」とギターを放り出して敗退。悪魔はJoe Seneca老人の契約書を破り、渋い顔で立ち去ります。

クライマックスがブルースでなくクラシック曲の対決というのが、なんとも肩すかしです。この映画の主題はブルースの探求だった筈なのに。オサマを捕まえに行った軍隊がサダムを捕まえて来たようなはぐらかされ方です。

この映画は描写は淡々と明るいのですが、登場人物たちは結構暗いことをやっています。先ず、Ralph Macchioが刑務所付属施設から老人を救助(?)しますが、これは立派な犯罪で、彼はここで魂を悪魔に売り渡してしまったと云っても過言ではありません。次に17歳の娘がバー・オーナーに売春しかけます。一転して、Ralph Macchioと老人も加わり、三人でバー・オーナーを拳銃で脅し財布と車を盗みます。次の町の酒場で、娘はプレイボーイの財布を掏ります(掏っても逃げずに残っているというお粗末さで御用になるというお粗末な脚本)。Ralph Macchioは彼女を庇って拳銃を振りかざしたりします。つまり、犯罪のオンパレード。

Ralph Macchioと娘はお互いに好きになったようなことを云いますが、これが取ってつけたような無理矢理の進行。この娘が出て来なきゃならない理由は全く見当たらないので、単なる色どりに過ぎません。そんな二人が惚れた腫れたと云っても木偶のようにしか見えません。

この映画で旅する地域はミシシッピ・デルタと呼ばれる(貧しいミシシッピ州の中でも)最も貧しい地域です。金持ちのお坊ちゃんがブルースを探求するのなら、馬鹿げた犯罪を冒したりするよりも、黒人・白人の貧しい暮らしを見て衝撃を受けるというような設定の方が、もっといいお話になったように思います。

(December 26, 2006)





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