[Poison] Courageous

【Part 2】

教会が集中的に行う行事に"revival"というのがあります。訳すと「信仰復興運動」となるようですが、「運動」という社会的なものではなく、信徒の眠っている信仰心を目覚めさせる催しという感じです。この映画を製作した教会・牧師たちとその信徒たちも、教会の若者たちへの影響力の少なさを憂えたのが映画作りの発端でした。いわば、メディアを使った"revival"というわけです。彼らの周辺ばかりか全米、全世界に受け入れられたこれまでシリーズの実績は大変なもので、製作者たちとヴォランティアたちの高揚感は想像を絶するものがある筈です。

しかし、この四作目に至って、綻びが見えて来ました。

1) テーマが「父親」だけであること
 確かに、子育てを妻に任せ、「おれは給料を運んで来れば充分だろう」という父親が多いのは事実でしょう。しかし、「父親」に絞ったせいで、他の家族(妻や子供たち)を除外する物語になってしまいました。第一作で「ビジネスと信心」、第二作で「スポーツと信心」、第三作で「結婚生活と信心」という、かなり普遍的なテーマで通して来たシリーズが、一転「父親の役割」という単一の(男性対象の狭い)テーマになったわけです。

 父親の役割は重く、「子供と接する時間を増やそう、子供を理解しよう」というキャンペーンは正しいのですが、あまりにも父親の役割を強調することによって、女性の反感を買っているような気がします。女性と青少年観客が得られないという損なテーマであったとも云えます。

2) ハリウッド映画指向になっていること
 これまで、このシリーズには本当の悪人(罪人)は登場しませんでした。ここに来て麻薬の売人や不良少年たち、そして悪徳警官(保安官補)まで登場させてドラマチックにしているのですが、これまでの清々しさが失われ、どこにでも転がっているTV映画の一つのようになってしまいました。ま、保安官補を描くのだから悪人も必要でしょうが、その保安官補の一人を悪人にする必要があったでしょうか?また、テーマのためとはいえ、幼い少女を殺してしまうのも残酷です。

3) 脚本が稚拙であること
 ユーモアを絡めるのは結構で、馬鹿受けとは云えないまでもクスクス笑いは得られるでしょう。しかし、本筋の立て方に大きな疑問があります。伏線を張って、それを馬鹿正直に受けて見せるという手口が見え見えで、トウィスト(捻り)が効いていないのです。

 主人公が幼い娘とのダンスを断れば、観客は「あ、この主人公は後でこのことを後悔するな」と想像しますし、主人公が息子のマラソンの誘いを断れば、「あ、最後には一緒に走るんだろう」と考えます。メキシコ人の昇進の条件が数量をごまかすことであれば「あ、(この映画の趣旨からいって)これは良心のテストだな」と推測出来ます。そして、全てその通りなのです。幼稚です。

4) プロパガンダに成り下がっていること
 映画の終了直前に、Alex Kendrickが教会の大聴衆を前にヒットラーの演説みたいに「父親の重要性」について説き、"I will!'(私は神を信じ、家庭と子供たちを守る!)を連呼します。聴衆の中から賛同する父親たちが一人一人立ち上がります。製作者たちはこのシーンを感動的なクライマックスに仕立て上げたと思っているでしょうが、キリスト教を信じていない私などには、押し付けがましいメッセージにしか思えません。群衆を前に絶叫すれば感動を呼ぶだろうというのは浅はかな魂胆です。

5) 父と娘の奇妙な行動
 黒人保安官補は15歳の娘のデイトを17歳まで禁止し、「パパがいい青年を結婚相手に見つけてやる。それまでこれを嵌めておけ」と娘の左手の薬指に指輪(おもちゃではなく高級品)を嵌めます。娘が不良青年なんかによって妊娠させられ、捨てられたりするのを恐れる気持ちは判りますが、結婚するまでデイト禁止なんて、横暴じゃありませんか。これは子供を大事にする父親の役割としては行き過ぎでしょう。

 IMDbのユーザーの意見の中に、「あの親子は近親相姦じゃないのか?」というのがありましたが、「私も父親から"purity ring"(純潔を護る指輪)を貰った」とか、「妻の"purity ring"を結婚の際に彼女の親に返した」という実話も投稿されていて、娘に指輪を贈るのは全くのフィクションではないようです。しかし、現代の娘たちにはそぐわない風習に思えます。

カミさんにもこのDVDを見せましたが、「嫌いだ」と云っていました。理由の一つはメキシコ人が良心のテストを受ける件が不愉快。また、登場人物が多過ぎて、彼らの問題とその解決のために物語がてんでんばらばらになっていること…だそうです。その通りです。

(March 28, 2012)





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