[Poison]

The Chase

『逃亡地帯』

【Part 2】

「脱獄囚の帰郷」に色めき立ち、徐々に興奮し始める町の様子がよく描けています。K.K.K.ではないのですが、脱獄囚(しかも新たに殺人を犯したと誤解されている)になら何をしてもいい、殺してもいい…という、アメリカ一流のリンチに繋がる興奮状態です。

しかしまあ、この町の倫理はどうなってるんでしょうか?夫の浮気、妻の浮気、それを知っていても何も云わない配偶者たち。

この映画の女たちは全員ひどい。色情狂か脳足りんのどちらか。こんな物語を書いたHorton Foote、脚本を書いたLillian Hellmanに腹が立ちます。先ず、Robert Duvallの妻Janice Ruleが軽薄な色情狂です。低い声で男を叱咤したり誘惑したりする様は小悪魔というか大悪魔というか…。Jane Fondaにしても夫がいない二年の間にもう情人を作っているので、これも色情狂。Richard Bradfordの妻は、明らかに結婚生活が破綻しているのに、Robert Duvall(夫の浮気の相手の夫)にすがろうとする。これは脳足りん。Robert Redfordの母は、Marlon Brandoに息子の助命嘆願に来るが、息子の居所を教えて貰えないとなると、石油成金の息子のために自分の息子を殺そうとしていると誤解し、「シェリフは嘘つきだ、嘘つきだ!」とオフィス前の野次馬に怒鳴ります。これが暴徒(といっても三人ですが)にシェリフ攻撃の土台を作るので、結果的に息子を危険に陥れます。このヒトも脳足りん。シェリフが痛めつけられている間、妻のAngie Dickinsonは、闇雲にドアを叩いて夫の名を呼ぶだけ。別室からショットガンでも持って来てぶっ放しゃいいのに、そういう知恵もありません。脳足りんの極で、もう頭に来ます。こんな馬鹿な女たちを女性脚本家が配置したというのは信じられません。

また、いくら町を牛耳る石油成金が後ろ盾とはいえ、シェリフ(法律)を滅多打ちに殴るなんてあり得るでしょうか?誰がやったかは分っているわけですから、もしMarlon Brandoが町を出なければ殴った奴等は裁判で公務執行妨害罪で有罪は間違いないでしょうに。こんなことする人間がいるでしょうか。これも信じられない。

Marlon Brando夫妻が「こんな町には愛想が尽きた」と去って行くのは、'High Noon'『真昼の決闘』のエンディングと同じ。

Robert Redfordはまだ駆け出しだったせいか、スタンドインなしで列車の上を走ったり、きわどいことを自分でやっています。

Marlon Brandoは既に大物だったのに、何故か激しくリアルに殴られていますが、これに関してある逸話を読みました。監督Arthur Penn(アーサー・ペン)は俳優達に、実際にMarlon Brandoの身体に触れるように殴ることを指示したというのです。本当の勢いで殴ってはMarlon Brandoが怒りますから:-)、全員がスロー・モーションで動く。それを通常の速度で再生すると、画面のようにリアルに見えるという寸法だったそうです。どんな風かヴィデオを駒送りで見てみましたが、上のように撮られたのは1カット、Marlon Brandoを殴る二回のボディ・ブローだけでした。後の数発はよくある空を切るヒッティングでした。

(September 17, 2002)





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