[Poison] Cat People
『キャット・ピープル』

【Part 2】

ファンタジー映画だそうなので、細かいことをあげつらっても仕方がないのですが、いくつか気になるところがありました。

冒頭の大昔の、豹に生け贄にされる娘がMalcolm McDowellとNastassja Kinskiの母親なのかどうか定かではありません。しかし、物語の後半で豹の寝そべる太古からの大木を訪れたNastassja Kinskiが、一頭の黒豹に「お母さん!」と呼びかけるところから考えて、どうやら生け贄の娘が黒豹に愛され、子供をもうけ、人間から豹になったようです。彼らは不死身のようですから、何世紀も生きて不思議はありません(ホントかね)。Malcolm McDowellは「おれたちの両親も兄と妹だった」と云います。すると、生け贄の娘を孕ませた黒豹は娘の兄だったことになります。近親相姦は劣性遺伝になるそうですから、Malcolm McDowellが情緒不安定な性格になったのも頷けます:-)。

過激にヌードを頻出させる映画ですが、兄妹相姦のシーンはなく、観客の想像に任されています。それを見せてしまうと、もうNastassja Kinskiと園長John Heardのセックス・シーンなどインパクトがなくなってしまうという理由でしょう。

世界中にどのくらい仲間のキャット・ピープルがいるのか分りませんが、バーでNastassja Kinskiに「わが妹」と話しかける婦人がいたわけですから、結構大勢いるのでしょう(この婦人は思わせぶりに一回出て来るだけで、その後出て来ません)。もしNastassja Kinskiに実姉がいたのなら、Malcolm McDowellはNastassja Kinskiでなく、姉であるこの婦人を求めてもよかった筈です。Nastassja Kinskiを案内する素振りからして、彼は時々豹の大木を訪れていたようなのに、どうして母親(豹)から姉について聞かされてなかったのか?黒人たちがお互いを"Brother"、"Sister"と呼び合う次元だったという解釈も成立しそうですが、その場合、"My brother"、"My sister"とは絶対に云いません。

途中でMalcolm McDowellはNastassja Kinskiに頼みます、「おれと交わって、この殺人行為をやめさせてくれ」と。となると、キャット・ピープルは好んで殺人を犯しているわけではないみたいです。常時血に飢えた凶暴な存在ではないのです。それにしては、Nastassja Kinskiは罪もない小屋番の老人を殺したりして、筋が通っていません。Malcolm McDowellは妹と交わることを望み、他の人間(女性)では満足出来ずに欲求不満で凶暴になるように描かれています。【註参照】 Nastassja Kinskiも普通の男性を受け入れられず、兄と交わるまで、園長John Heardとセックス出来ませんでした。しかし、兄ともJohn Heardとも愛しあうようになったわけですから、彼女には欲求不満はない筈です。何故、小屋番の老人を意味も無く殺したのか。多分、脚本家は彼女の凶暴さを見せたかっただけなのでしょうが、何か説得力(必然性)のある理由を用意してほしかったと思います。

【註】本稿執筆後IMDbの"User Comments"を訪れると、「セックスした後、豹から人間に戻るためには相手を殺さなければならない」というコメントがありました。それで統一されていればいいのですが、この映画ではそんな風に一貫していません。Malcolm McDowellは冒頭でマッサージ師(売春婦)を殺しても人間に戻っていませんし、Nastassja Kinskiはセックスしたわけでもないのに小屋番の老人を殺しています。豹から人間に戻るためには、相手構わず誰でもいいから殺すということでしょうか?それなら、Nastassja Kinskiは園長John Heardを殺すことなくセックス出来たわけですから(他人を殺せばよいのです)、何度も躊躇する必要はなかったのです。この辺がちと曖昧です。

最後に近い辺りでAnnette O'Tooleがジョギングの最中に何物かに追尾され、プールで泳いでいると豹の咆哮が聞こえます。しかし、現われたのは人間の姿のNastassja Kinskiで、誰にも危害を加えません。もし、Nastassja Kinskiが豹の姿でAnnette O'Tooleをずっとストーキングしていたのなら、誰かを殺さないと人間の姿に戻れない筈ですが、ここではそういう血なまぐさいことは起りません(人間として豹のようにリアルに吠えることは出来ない筈です)。Annette O'Tooleのヌードには拍手を送りますが:-)、このシーンは肩すかしであるだけでなく、整合性に欠けています。

ついにJohn Heardとセックスする決意をしたNastassja Kinskiは、彼と愛しあった後黒豹となって彼を殺しそうになり、あわやと云う時、彼が彼女の名を呼んで頼むので思いとどまり逃走します。川に逃れた黒豹のNastassja Kinskiは、John Heardのバイユーのコテージに現われます。John Heardは彼女が黒豹だと知っているので、彼女の手足を縛ってセックスします。開巻直後のシーンで生け贄の娘が両手両足を縛られたのに対応しているわけです。この時のNastassja Kinskiの身体の形はスプレッド・イーグルです。手を大きく左右に広げてベッドに縛り付けられ、両脚も大きく広げさせられるのがスプレッド・イーグル。映画では両脚はあまり広げられていず、完全な形にはなっていません(局部があからさまになることを恐れたのでしょう)。

映画の冒頭、Malcolm McDowellが連れ込みホテルにマッサージ師に呼んだ時、マッサージ師はベッドに何かゼリー状のねっとりしたものがあることに気づきます。Malcolm McDowellが旅行者の女性を殺した後、彼はゼリー状のねっとりしたものをもぐもぐと頬張ります。あれは何なんでしょうね。美味しそうには見えませんが。

不死身であるとしても、豹から人間になる時は黄色い煙を出して、豹の毛皮が硫酸でも浴びたように焼け焦げるようです。それを何度もやったら火傷したり、髪の毛が焦げて縮れたりしないのでしょうか?少なくとも、焼けた臭いは肌に染み付くように思われますが。

映画の最後で黒豹となったNastassja Kinskiは、動物園で園長John Heardから餌を貰います。檻に入れば殺人行為を犯さないで済むということで二人が合意に達したようです。しかし、40年経ち80年経ち、John Heardも死に、彼女に脱走の機会がなかったら“不老不死、不死身の黒豹”の存在が世界に露呈してしまいます。これはキャット・ピープル一族にとってまずいのではないでしょうか?

楽しんで鑑賞しましたが、以上のような諸点について「なるほどね」と納得出来る説明があるとよかったと思います。嘘でもいいのです。「この映画としては、こういう前提で話を進めている」というルールに則っていれば納得します。ジグソー・パズルは滅茶苦茶のようで、ちゃんと全てのピースを嵌めれば立派な絵が完成します。どうやっても完成しないパズルを観客に押し付けるのはフェアではありません。

(April 21, 2007)


【オリジナル版視聴記】

1942年版の'Cat People'『キャット・ピープル』をTV放映で観ることが出来ました。ニューヨークが舞台なので、これ単独で“大全集”に取り上げるわけには行きません。リメイク版をクソミソに貶すオリジナル版愛好者のコメントを読んでいましたので、相当いい出来映えの映画なのかと期待していました。大したことはありません。1942年ですから特殊効果も何もなく、黒豹は檻の中をうろつくか外ではシルエットでしか出て来ません。俳優たちもあまり魅力的ではありません。

公園の檻の中の黒豹をスケッチする女性に惹かれた男性が、次第に親交を深め結婚するに至る。しかし、彼女は故郷の伝説にある悪魔の黒豹の血が自分に流れていることを恐れ、夫にキスもセックスも許さず、数ヶ月の猶予を懇願する。夫は船舶会社のデザイナーで、彼に惚れている同僚の女性がいる。二人の間には何もないのに、妻は嫉妬してその女性をストーキング。夫の同僚の女性は黒豹の唸り声を聞いたり、プールサイドに置いた衣類に鉤裂きを作られたりして怯える。夫は妻を精神分析医に紹介し、妻も医師を頼りにする。医師は彼女とキスをするとどうなるかを試し、黒豹となった彼女に殺されるが、医師も短剣で彼女に深手を負わせる。妻は動物園の檻の鍵を手に入れ、黒豹を外に放つ。黒豹は彼女を踏み越えて園外に飛び出すものの、丁度駆けつけたパトカーに轢かれて死んでしまう。檻の前でも、黒い毛皮のコートに包まれた彼女の死体が横たわっている…というストーリィ。

昔の映画ですからこじんまりしているのは仕方がありません。女性主人公がいつ黒豹になるか?というスリルはあります。しかし、黒豹になる切っ掛けが誤解に基づく嫉妬であるというのがつまらない。第一、結婚していながら初夜から別々の寝室に寝ていて、他の女性に嫉妬するなんて図々しい。愛する夫を殺したくないという理由は分りますが、それならなぜ結婚したのか?この映画は袋小路の中で行きつ戻りつする人々を見ているようで、非常にもどかしい。唯一感心したのは、女性主人公がペット・ショップに行くと鳥や動物たちが(恐怖から)一斉に大騒ぎするシーン。この趣向はリメイクにはありませんでした。

リメイクにも欠点はあるものの、オリジナルの数倍いいと思います。

(October 10, 2007)





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