[Poison] The Curious Case of Benjamin Button
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』

【Part 2】

もともと“南部もの”ではない物語なので、あまり書くこともありません。ただホラ話として割り切った上でも、一つだけ疑問点があります。原作小説を文字として読んでいる分には気にならないのでしょうが、映像で見せられるとどうしても引っ掛かるのは、Benjaminが最後に子供になり赤ん坊になる際の骨格の問題です。骨はカルシウムが溶けたり砕けたりすることはあっても、縮むことはありません。赤ん坊が老人のような皺クチャの顔をしていることは受け入れられますが、青年の骨格が赤ん坊の骨格に縮むというのは受け入れられません。

もちろん、年齢と肉体が逆行することも科学的にはあり得ないので、それを受け入れておいて骨格のことを持ち出すのは矛盾しているというか、ないものねだりに過ぎないかも知れません。しかし、何か「あ、そういうこと?なるほどね」と思えるような説明を(デタラメでもいいので)捏造してほしかったと思います。

映画のイントロの、息子を戦争で失った時計職人が「逆行する時計」を作るというのは、素晴らしいアイデアです。その時計はニューヨークの中央駅に掛けられるのですが、いつの頃にか外されてデジタル時計に置き換えられてしまいます。で、映画の最後でハリケーン・カトリナが襲って来ると、何故か「逆行する時計」のある倉庫が浸水し、時計が水浸しになるんです。ニューヨークにあったこの時計がいつニューオーリンズに来ていたのか不思議です。

(December 28, 2009)


【Part 3】

Criterion Collection版に付属の'The Supplements'というボーナスDVDを観ました。この物語の映画化にまつわるディテールが、企画の初期から映画公開まで関係者の証言と映像で詳細に語られます。相当長い"Making of..."です。

私はPart 1で「子役」と書きましたが、実は中年の小男二人がスタンドインを務めているのでした。かなり背の低い方が車椅子時代のBenjamin、背の高い方が船員時代のBenjamin。どちらも頭に青い帽子(後処理で透明にする)を被って演技します。彼らの首から下は最終映像に使われるので、監督も真剣に演技指導します。では、顔はどうか?。

顔はBrad Pittの顔をライフ・マスク(石膏像)にしたものを土台にCG化したもの、本人に特殊メークを施したものなど色々です。上の小男の演技の顔の部分がコンピュータで卵型に切り抜かれ、そこにCGで作られたBrad Pittの顔か特殊メークのBrad Pittの顔が置き換えられます。この利点は、子役よりもプロポーションが大人(老人)に近いので、とてもリアルに見えることです(子役を使って不自然だった'The Load of the Rings'『ロード・オブ・ザ・リング』の反対)。

Cate Blanchettにバレエのシーンの謎解きもされています。立っている彼女の顔の周りを360度回転するヴィデオ・カメラで撮影します。彼女の体型(顔の輪郭も)に似た本物のバレリーナが踊ったシーンを、やはり顔だけ卵型に切り抜き、Cate Blanchettを360度撮影した顔に置き換えるのです。

これは何十年もにわたる物語なので、出演者たちは若返ったり老け込んだり変貌しなければなりません。Benjaminの育ての親である黒人女優は特殊メークだけですが、若い時のBrad PittとCate BlanchettはクロースアップにされるのでCGで整形されています。担当者によれば、「人間の顔は中年以降加齢と共に弛(たる)んだ皮膚が重力の作用で垂れる」ので、20代を演じているBrad PittとCate Blanchettの顔の頬の弛みをコンピュータ・ソフトで吊り上げ、笑い皺などを消し去りました。担当者は「整形手術のテクニックと全く同じ」と云っています。これは写真館などで撮影された写真の修正技法とも似ています。

船はスタジオ内のブルーバック・スクリーンの前に“建造”されたもので、電動で横揺れ・縦揺れするようになっています。これはまあ、よくあるケースです。波や他の船は全てコンピュータ・グラフィックス。潜水艦などは“建造”すらされず、一からCGです。

逆回転する時計が据え付けられた駅は、外景はNew Orleansの裁判所にCGでいろいろ付け足したもの。内部の場面は時計を据え付ける壁面だけセットが組まれ、両脇はCG。時計の文字盤は青い色で染められているだけで、後にCGで作られた古めかしい文字盤が付け加えられました。

New Orleansの第一次大戦戦勝の日(=Benjamin誕生の日)の描写で花火を打ち上げようとしたら、市当局から「当市は木造家屋が多いので危険である」と断られ、監督の旧作の花火の画面を二次利用して合成しました。

New Orleans名物の路面電車は、当時ハリケーン後遺症で壊れて動かず、線路の上をトラックで引っ張って動かしたとのこと。

この映画はCGのてんこ盛りという感じなので、そういう分野に興味のある方はこの付録DVDを見るべきでです。参考になること請け合いです。

私はCGの出来映えを見るつもりで本編を再視聴しましたが、物語にぐいぐい引っ張られて、最後まで楽しんでしまいました。

(September 23, 2012)





Copyright © 2001-2012    高野英二   (Studio BE)
Address: Eiji Takano, 421 Willow Ridge Drive #26, Meridian, MS 39301, U.S.A.