[Poison] Mississippi Burning
『ミシシッピー・バーニング』

【Part 2】

この映画のモデルとなった事件は、実は筆者の住んでいる町の隣り町で起りました。現在はインディアンによって経営されているカジノがあるPhiladelphia, MS(ミシシッピ州フィラデルフィア。有名な都市とは別)という町です。殺された中の一人(黒人)は私が住んでいるMeridian(メリディアン)の出身で、お墓もあります。

いくら36年前の話で、ドラマタイズされて大袈裟に描かれているからといっても、この映画の1/10の事件ですら恐ろしい話です。'The Chamber'『チェンバー 処刑室』のある人物は「ここはミシッシッピ。秘密だらけの土地なのよ。そこらじゅうに死体が埋まっているの」と云います。まさに、それが真実味を持って来るのがこの映画です。

住民達の協力が得られず、自治体の顔役達は露骨に捜査を妨害するという有り様で、FBIの指命達成は前途遼遠としか思えません。それを打開するために、FBIは強引な手を打ちます。町長からK.K.K.メンバーを聞き出すことと、さらにK.K.K.の仲間割れを画策して青年三人の殺害犯を割り出すことですが、ここら辺が映画的フィクションなのでしょう。K.K.K.の白マスクが効果的に使われています。

誘拐した町長が自殺した時、FBIの部下が顔を曇らせますが、Mr. Wardは「彼は有罪だ。誰にしろ、ことが起るのを見ていて何もしなければ有罪だよ。彼は有罪だ。多分、我々みんなも…」と云います。これがこの映画のメッセージのようです。

K.K.K.を初め、シェリフなど関係者が続々逮捕されます。「フィクションである」と断っていても、現実の事件に酷似しているため、Philadelphiaのシェリフが名誉棄損で訴え超長期裁判で映画プロデューサーを悩ませたそうです。

Mr. Andersonが保安官補をK.K.K.の一人と目星をつけ、その細君に接近しますが、どうも好意以上の感情を抱いてしまったようです。あげくの果て彼女と懇ろになってしまうので、怒った旦那が細君を滅多打ちします。その旦那が床屋にいる時に、Mr. Andersonがカミソリ片手に保安官補を脅すシーンが恐い。しかし、いくら旦那が悪くても、亭主のある女性を誘惑する方も悪いので、これはどっちもどっちですね。そもそも、この女性とのエピソードは事件解決に何のプラスにもならず、単に女っ気を足すためにだけ設けられたシーンのように思えます(註:これが筆者の勘違いであったことはPart 3に書きます)。この関連を全部削って、FBI捜査官達と黒人達との触れ合いをもっと描いてくれれば良かったのに。

(March 3, 2001)


【Part 3】

この映画のDVDの監督コメンタリーを聞きました。監督Alan Parker(アラン・パーカー)の喋り方は、ぼそぼそとして聞き取りにくいのが難点です。

「オープニングで三人の青年たちの車がK.K.K.の三台の車に追尾されるシーンは、三日間の“マジカル・アワー”(日没寸前の撮影可能な時間帯)を使った。

この映画のほとんどはミシシッピ州の州都Jackson(ジャクスン)近郊で撮られたが、舞台となる小さな町の外景だけは全てアラバマ州東部のLafayette(ラファイエット)である。床屋のシーンはJacksonの隣町Canton(キャントン)の床屋。

"Mississippi Burning"というタイトルは、この事件に関するFBIの捜査資料のファイル名"MS Burning"から取った(MSはミシシッピの略)。

Gene Hackmanと保安官補の妻Frances McDormand(フランセス・マクドーマンド)の間は、ほぼセクシャルな関係だし、Gene Hackmanは明らかに彼女を利用しようとしている。彼が彼女を好きになっているのは嘘ではないが、ハリウッド流の男女の性的関係には発展しない。

この映画の撮影監督(イギリス人)は照明に専念していたので、カメラの動きは私とカメラ・オペレーターの二人でやった。英国の撮影監督はカメラは操作せず、“ライティング・カメラマン”と云ってよい。私はストーリィ・ボードまでは書かなかったが、概ね考えた通りの撮影が出来た。【編註:日本映画では「照明」という担当者がクレディットされますが、欧米では撮影監督が照明を設計し、現場で助手たちを指揮します】

この映画に出て来る少年(父親がリンチされる)は、殺害された三人の若者の一人の黒人James Chaney(ジェイムズ・チェイニィ)の弟のイメージである。James Chaneyの葬儀における母親とJames Chaneyの弟が寄り添った美しい白黒の写真がある。私はその写真に感銘を受け、その写真に似た子役を選んだ。

Gene Hackmanは人間としても俳優としても、監督として付き合いやすい部類である。Gene HackmanがK.K.K.の男の恫喝に、男の股間を握って対抗するのは彼のアイデアだった。的確で印象的なアクションである。

TVカメラに答える現地住民は全て地元民で、役者ではない。彼らの発言は私が云わせたものではなく、彼ら自身の言葉である。

この映画に出て来るK.K.K.の白黒フィルムは本物である。カラーで再現するより迫力があるので使った。K.K.K.の衣装を着た子供の姿が衝撃的だ。この映像を映写機で試写しているように見せたのは、白黒フィルムを挿入する言い訳である。

黒人たちの公民権運動のデモ行進は、白黒の実写フィルムをもとに再現したもの。警官が黒人少年たちから星条旗を奪うシーンは、以前のドキュメンタリーからヒントを得た。

K.K.K.によって黒人の家が燃され、車に乗せた黒人少年に段ボール箱を被せて目だけ出させて容疑者を探すシーン。これは他の地域で実際に行なわれた要素を取り入れたものだ。少年とFBI捜査官を乗せた車はゆっくり前進しながら左右に大きく蛇行する。これは見た目には分らないだろうが、しょっちゅう焦点が変化するので、レンズ・オペレーターが苦労した、とても難しい撮影だった。

家畜小屋が燃された後の馬や牛の死体は、既に死んだ動物を購入して使った。Willem Dafoeがハンカチで鼻を覆うのは演技ではない。死臭は堪え難い臭いを発散していたのだ。

K.K.K.の集会は、この映画の最大のシーンだった。750人のエキストラを集めた。

保安官補の妻Frances McDormandがGene Hackmanに重要な情報を与えるシーンは、引きの画(ロング・ショット)だけでなく二人に寄ったショットも撮っていたのだが、あのように引きだけで編集した。【編註:このシーンでFrances McDormandは殺された三人が埋められた場所を教えたのですね。最初にPart 2を書いた2001年の時点では聞き取れず、今回英語字幕はなく、音声も低くて聞き取りにくいDVDを観ていても解りませんでした。監督のコメンタリーを聞いて初めて知った次第です。現実の事件では関係者の妻の情報ではなく、多額の賞金に目が眩んで寝返ったK.K.K.の一人の情報で場所が特定されました】

最後に近いシーンでゴスペルを歌う黒人女性は、音楽教師でありこの映画のゴスペル音楽のコンサルタントでもある。

[tomb]

ラストの壊された墓石は、ミシシッピ州Merdian(メリディアン)出身の黒人青年James Chaneyの墓が何度も壊された事実に基づいている。黒人嫌悪と無知、愚かしさがなおも存在するということを示したかったからだ」【編註:この墓地の全景は南北戦争の史跡であるVicksburgで撮られたそうです。Merdianは私が住んでいる町なので、James Chaneyの墓も何度か訪れたことがありますが、この映画のように広大な墓地ではありません。墓が何度も壊されたのは事実で、現在は鉄の支柱で墓石が倒れないようにしてあります】

監督のコメンタリーは以上です。以下はこの映画を観直した私の補足。

Gene Hackmanは、町へ到着早々地元民に"Howdy."(こんちは)と云いますが、この挨拶は私が住んでいる地域では聞いたことがありません。中には"Howdy."と云う人もいるかも知れませんが、極めてゼロに近いと断言出来ます。西部劇やテキサス地方が舞台の現代劇ではよく聞く挨拶ですが…。この物語は私が住む町の隣町で起った事件であり、Gene Hackmanの役もミシシッピ出身ということになっているのに、こんな言葉を発するというのは不思議です。この辺の挨拶の定番は"How are you doing?"です。

保安官補を演じるBrad Dourif(ブラッド・ドゥーリフ)は、'One Flew Over the Cuckoo's Nest'『カッコーの巣の上で』(1975)の最も若い精神異常者を演じていた俳優。ここでも不気味な目つきのK.K.K.を好演しています。

FBIに殺された三人の車が隠された沼地を教えるインディアン(チョクトー・インディアン)が料理しているのは、南部名物のナマズです。南部はナマズの大養殖地で、全米に出荷しています。普通は唐揚げにして食べます。

そのインディアンの案内で、FBIの黒ずくめのFBI捜査官たちが沼地をじゃばじゃば水に浸かって歩きます。しかし、次のシーンでは見つかった車をトラックで引っ張り上げています。トラックが通れるのなら、別に身体半分水に浸かって歩く必要はなかった筈です。遠回りであっても、道路を歩くべきだったでしょう。ま、背広の人間に沼地を歩かせたかったアイデアは分りますが:-)。

保安官補の妻Frances McDormandがGene Hackmanにアイス・ティーを御馳走します。アイス・ティーも南部の名物です。この映画では彼女がGene Hackmanのアイス・ティーに砂糖をスプーン二杯入れます。レストランなどでは既に人工甘味料を入れた甘いのと、何も入れてないのと両方を用意していて、どっちがいいか聞かれます。しかし、普通の家では人工甘味料を入れたもの一種類が多いので、砂糖を入れる必要はありません。家庭によって違いはあるかも知れませんが。

(April 10, 2008)





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