[Poison] Bull Durham
『さよならゲーム』

【Part 2】

細かいことですが、冒頭のSusan Sarandonの語り、彼女の"baseball"と云う時の"ball"の発音は可愛いし、いい響きだと思いました。

野球場で"Y'all don't forget Saturday is Bull Day."というアナウンスがあります。"Y'all"は南部表現で"You all"(皆さん)を縮めたもの。「皆さん、土曜日は我がチームのファン・サーヴィス・デーであることをお忘れなく」です。

監督が「10秒以内に全員シャワールームに集合!」と怒鳴ると、コーチが"One Mississippi, two Mississippi..."と10まで数えます。"One, two..."だと早過ぎるので、"Mississippi"を付け足すと丁度1秒になるという数え方です。これは南部ばかりでなく、アメリカ全体で使われているようです。

選手の一人は野球のバットを鶏の骨で作った十字架で撫でます。Voodoo(ヴードゥー)のおまじないで、不運な呪いを祓うのだそうです。彼の名前(Jose=ホゼ)からして中米からの移民であることは明らかです。中米とアメリカ南部はVoodooを信じる人の多いところ。冗談でやっているわけではありません。

私はこの映画の野球に関する部分は感心し、楽しんで観ることが出来ましたが、Susan Sarandonにまつわる部分は作り物の感じがあからさまで全く気に入りません。先ず、監督やコーチも気づかない選手の欠点(投球のフォロースルーが足りないとか、バッティングの腰の動きなど)をアマチュアの女性が指摘するということが信じられません。次に、目玉がこぼれ落ちそうなこういう女性(しかも、もう若くもない)に、Kevin CostnerやTim Robbinsが惹かれるという点も信じられません。

彼女は「1シーズンに一人の男とくっつくのがあたしのルール」と明言しているぐらいですから、40数歳になるまでにもう何十人もの選手と“不純異性交遊”があったわけです。よほどセックスに飢えている男(映画の最初の頃のTim Robbinsがそうでした)であれば、身を任せてくれるならどんな相手でも大喜びでしょうが、もうそういう時期を過ぎたKevin Costnerまで彼女に惹かれるというのは非常に嘘っぽい。

百歩譲って、Susan SarandonにKevin Costnerが惚れるだけの魅力があると仮定しましょう。しかし、いくらTim Robbinsが去ったからといって、数週間前まで自分が育てていたTim Robbinsの“女”のベッドに飛び込むというKevin Costnerの態度は信じられません。少なくとも、われわれが抱くKevin Costnerのイメージからはほど遠いものです。彼が安っぽく見えて哀れを催します。

「1シーズンに一人の男」というSusan Sarandonの台詞が本当なら、同じチームに昨年のボーイフレンド、一昨年のボーイフレンド、三年前のボーイフレンド等がいてもいい筈ですが、そういう人物は一切出て来ません。彼女とセックスすると一人残らず大リーグへ移籍するわけでもないでしょうから、彼女に馴れ馴れしく話しかける旧ボーイフレンドが一人もいないというのは不思議な話です。脚本は、彼女の男漁りはまるで今年から始まったかのように過去を無視し、彼女が尻軽女ではないように見せているのです。観客を騙すトリックですね。

Susan Sarandonが国語の先生だからといって、やたら詩人・文学者の言葉を引用するのも嫌味です。こういうのは、脚本家が「おれ、教養あるんだぜ」とひけらかしているように思えてなりません。

では、Susan Sarandonではなく、私好みの女優が演じたならばこの女性の存在が許せるか?と考えてみました。私の突っ込みが多少甘くなることは確かですが、それでもやはりこの女性はこの映画の夾雑物です。こんなに比重を重くしないで、軽くあしらう程度だったら良かったのだと思います。ハリウッド流に「女性も登場させなければいけない」、「ロマンスもなければいけない」、「セックスもなければいけない」という思い込みが邪魔をしたのです。マイナーリーグの選手たちの日々の哀歓、緊張・興奮・怒り、競争心、かけひき、友情などに集中すればよかったのです。

Kevin Costnerが退場させられた後の話が面白くもないし、長い。折角築き上げたKevin Costnerのいいイメージを台無しにするシーン(大リーグに移るTim Robbinsを妬んで冷淡になる)と、物語を終らせるためだけのなくもがなのシーンばかり。彼の存在はいわばShane(シェーン)なのですから、頼もしく爽やかなまま消えるべきでした。主人公が妬んで見せたりすれば「人間味がある」と評価されるかも知れないという、脚本家の下心が見え透いています。「ハッピーエンドで終らさなければいけない」という強迫観念にも呆れます。

(September 19, 2007)





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