【Part 2】

映画の冒頭で、クォーターバックが圧し潰されて骨折した事件について説明する時、ナレーターは"one Mississippi"、"two Mississippi"、"three Mississippi"と順に説明します。この場合、「第一段階、第二段階…」という意味になりますが、これはアメリカやカナダの子供たちが隠れんぼする時などによく用いる数え方です。"Mississippi"を付けて発音すると丁度1秒になるからです。ミシシッピ州そのものとは全く関係ありません。

GPA（Grade Point Average、グレード・ポイント・アベレージ）は、各科目の成績から特定の方式によって算出された学生の成績評価値のことで、オールAなら4.00、オールFなら0.00です。この当時、1.76だった主人公Michaelは、NCAAによる奨学金制度にパスするために2.5以上必要でした。家庭教師のお蔭で、彼は2.52でパスします。日本においても成績評価指標としてGPAを導入する大学が増えているそうです。

主人公Michaelが運転免許を得た時、保護者夫妻は彼にピックアップ・トラックをプレゼントします。長女Lily Collinsが「Michaelはトラックを欲しがったの？」と聞くと、父親Tim McGrawは「彼は自分がレッドネックだと思ってるんだ」と答えます。レッドネックはアメリカ南部の粗野で無教養な人間を指す侮蔑語ですが、南部の人間同士がお互いを指す場合には問題ありません。ここでは「彼は自分が生粋の南部男だと思ってるんだ」という意味で使われています。アメリカ南部の多くの家は妻が乗用車、夫がピックアップ・トラックを持っています。ピックアップ・トラックはハンティングで射った鹿を運ぶのに便利ですし、魚釣りの道具を運んだり、芝刈り機を修理に出すとか、建材や植木や芝の苗を沢山購入する時などに役立ちます。トラックは主に屋外で活動するマッチョな南部男性の象徴でもあるわけです。

主人公Michael Oherは養父母の母校であるOle Missに入学します。実は黒人がOle Missに入るについては大変な過去があったのです。私の姉妹サイト『公民権運動・史跡めぐり』の一つ「ミシシッピ大学初の黒人学生ジェイムズ・メレディスの転入にともなう暴動」に詳細に記していますが、事件があった1962年当時は大学側、州知事、白人（K.K.K.を含む）らが手を結んで黒人学生の転入を阻もうとし、軍隊が出動する事態にまで発展しました。41年前のこの出来事が突破口となってOle Missに黒人生徒が入学出来るようになり、今やOle Missのスポーツ面では黒人生徒は不可欠の存在となっています。Michael Oherは当たり前のような顔をして入学しますが、実はそれは流血の惨事によって得られた賜物なのです。

この映画には実在のフットボール・コーチが多数実名で登場します。ルイジアナ州大、アラバマ州オーバーン大、アーカンソー大、サウス・キャロライナ大、テネシー大、ミシシッピ大などのコーチたち。有名コーチがここまで大挙して出演する映画も珍しい。彼らが達者とは云えないまでも何とか芝居をする姿は、アメリカのフットボール・ファンにはこたえられない喜びでしょう。なお、登場するほとんどのコーチは現在他の大学に移籍しているか、TV解説者に変身しているそうです。

フットボールの映画は数々ありますが、この映画のフットボールの描写はずば抜けてひどい（！）。単調で、画面の迫力もなく、誰が誰か解り難い。素人（キリスト教徒たち）が作った'Facing the Giants'『フェイシング・ザ・ジャイアント』（2006）の方がずっとマシです。

Taco Bellチェーンは全米だけで5,800店舗あるそうですから、Tim McGraw演ずる夫が持っている店舗数65というのは大きい数字とは云えませんが、富豪には違いありません。そういう家だから、少年を住まわせたり家庭教師を雇ったり出来るわけです。しかし、妻の独断専行的決断・行動（少年を泊める、滞在させるなど）に対し夫がほとんど抵抗しないのは不思議です。妻の博愛精神をキリスト教的愛で容認するという姿勢なのかも知れませんが、あまりにも大らか過ぎてちと嘘っぽい。夫婦ともまだ現存する人物だから綺麗ごとになっているのでしょうか。

それにしても、『しあわせの隠れ場所』という邦題はひどいですね。"blind"の“見えない”という語感を残したいということにしても、“隠れ場所”という表現はいかにもこなれていません。全体の意味も不明。映画を観終わっても、何のことやら解りません。

(May 06, 2010)