[Poison] Black Like Me
(未)

【Part 2】

実際にこういう体験をした雑誌リポーターの本をベースに映画化したものですが、原作者の意向とこの映画のJames Whitmoreの役作りは相当違うようです。本を読んだ人の話ですが、黒人がJames Whitmoreのように口答えしたらタダでは済まない(撃ち殺されることすらある)。それなのに、James Whitmoreは、時に白人を恫喝さえするので、これは原作者が学んだことに反する。また、James Whitmoreは終始北部訛りで喋っていて、南部の黒人には見えない…等々。

「白人が黒人になる」と云えば、Robert Duvall(ロバート・デュヴァル)主演の'A Family Thing'『ファミリー/再会のとき』があります。あれは50を過ぎるまで白人と思い込んでいたのに、母親が死ぬ前に「あなたは黒人と私の間に生まれた子だ」とショッキングな遺言を残して逝くという話でした。シリアスな状況ですが、もう人生も晩年を迎えようとする歳だし、黙っていれば白人にしか見えないので、徒に迫害や差別を受けることもありません。そういう意味では、Robert Duvallに同情はしつつも、彼と周囲の混乱ぶりを楽しむという映画になっていました。

この'Black Like Me'は、周囲を騙すという意味では'What the Deaf Man Heard'に似ています。あれは10歳で旅先で母親とはぐれた男の子が、周囲が勝手に聾唖者と思い込むので、そのまま数十年聾唖者として過ごす。勿論、普通に聞こえるので、人々の悪口、陰口、密談など、全てを知ってしまうという物語でした。

'Black Like Me'も親切にしてくれる黒人を騙し、差別する白人も騙すわけです。主人公が「これほど黒人差別がひどいものとは知らなかった。世間に知らしめて、世の中を変えなくてはいけない」という義憤は正しいものの、彼が黒人たちをも騙したことには違いありません。それゆえ、映画の最後で、いくら彼が黒人の父子相手に“演説”しても信じて貰えないのです。「あんたは俺たちを騙してたじゃないか。信じろと云っても無理だ」という黒人たちの怒りもまた正しい。

James Whitmoreが演じた人物は、この旅で色々な体験をし、原稿を書いて報酬を貰い、ついでに本を書くチャンスも得た。黒人たちからすれば、「自分のためじゃないか」ということになるわけでしょう。まあ、主人公をヒーローにしないで、そこまで黒人たちの視点も含めたのは製作者たちの度量の広さです。

しかし、どうも映画を見つつ落ち着かず、苛々させられました。James Whitmoreのゴール(フィジカル、メタフィジカル双方の)が解らないことと、彼には実験精神が欠けていて黒人になり切れず、すぐ教養ある白人の視点から怒り狂うのがその原因です。常にテンションが充満し、ユーモアのかけらも無く、一本調子。観ていてしんどい。

(May 04, 2001)





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