[Poison] The Biscuit Eater
(未)

【Part 2】

この映画の物足りないところは、能無しの"biscuit eater"が全国チャンピオンに迫るような能力を身につけて行くところがきちんと描かれていないことです。急に素晴らしい猟犬になっちゃう感じなのです。

コンテストの方法ですが、先ず猟犬を放し、犬が地面に潜んでいる鳥を発見し"spot"したら、飼い主が近寄って鳥を足で脅して飛び立たせ、それを散弾銃で射ち、犬がくわえて持って来た獲物の数を競うことで行なわれます。で、これを12歳のJohnny Whitakerもやるんです。そんな子供に銃を射たせていいのか?アメリカではいいんですね。講習会も免許も要りません。銃を買うには自動車免許証などによる身分証明だの犯罪歴が無いなどの条件がありますが、射つのは自由。狩猟をする人は州に僅かなお金を納め、個人の猟場を利用するには会員権が必要ですが、それ以外には何も必要ありません。だから子供でも鉄砲を射てるわけです。山野でも、学校の中ででも(これが問題です)。

また、Moreoverの個性や少年たちとの結びつきの描写も不足です。狩りはうまくなったようですが、相変わらず卵を盗むような厄介者の犬に見えるので損をしています。毛の色が濃くて表情もよく見えないし、どうにも魅力的な犬に思えないのです。

この映画で賢いのは女性です。男たちは子供たちもEarl HollimanもGodfrey Cambridgeも、全て賢い女性たち(Pat CrowleyとBeah Richards)にコントロールされます。映画の最後で、Earl Hollimanが「チャンピオンである間にSilver Belleは引退させませんか?」と云うと、犬舎のオーナーLew Ayresが「そうだね。来年は若くて強いのがいいね(=Moreoverのこと)」と応じます。すると、Earl Hollimanの妻Pat Crowleyは「あの犬はあなた方の犬じゃなくってよ(=子供たちの犬よ)」と指摘します。これによって、犬舎のオーナーさえも女性にやり込められたことになります。

Earl Hollimanは、過去に演じて来た役柄が大体弱気で優柔不断というパターンでしたが、この映画でも頼もしい父親には成り得ていません。彼なりに努力しているのは分りますが、人のいい父親には見えても、傲慢な農園主Clifton Jamesと殴り合いをして勝てるほど頼もしくは見えません。

その農園主Clifton Jamesですが、過去にEarl Hollimanの犬が敷地に忍び込んでClifton Jamesの羊の一頭を殺したという経緯があって、犬に敵意を持っているという設定です。彼が「おれの敷地に来た奴には弾をぶち込む」と云うのは理解出来ます。しかし、この映画では卵を盗みに来たMoreoverに毒入り卵を食わせるんです。これは「犬は人間のベスト・フレンド」という英米の観客には堪え難いほどの卑劣さ、残酷さでしょう。ここまでひどい人間を出す必要があったのかどうか。こういう人間が相手なら、いかに弱々しいEarl Hollimanでも殴り合いに勝たねばなりません。

殴り合いに勝ったEarl Hollimanに息子のJohnny Whitakerが、尊敬の眼差しで"You were something."と云います。「かっこ良かったよ」という感じでしょうか。

私はJohnny Whitakerの'Tom Sawyer'を観た時から、この子役が好きになれません。特徴ある顔を可愛いと思う人もいるのでしょうが、私にはそうは思えないのです。彼の親友を演ずるGeorge Spellは、黒人少年としては整った顔だちですが、あまり演技がうまくなく、見せ場もありません。

底の浅い映画です。便宜的に☆を一つつけていますが、本当は無印が妥当なところ(良品ではない無印)。1940年に製作されたオリジナルは、ハリウッド映画で初めてオール・ロケで撮影された歴史的作品だそうです。そっちの方を観てみたい思いです。

(February 14, 2007)





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