[Poison] Birth of the Blues
『ブルースの誕生』

【Part 2】

この映画の題名が問題です。'Birth of the Blues'という原題も、『ブルースの誕生』という邦題も内容に相応しくありません。この映画の内容は「ブルースの誕生」などというものではなく、「ディキシーランド・ジャズの誕生」でさえもありません。単に「白人によるディキシーランド・ジャズ・バンドの誕生」というものです。登場人物にも特定のモデルがあるわけではなく、ただのフィクションです。

Bing Crosbyが、自分たちのバンドの将来を悲観するJack Teagardenに「生牡蠣をどう食べる?」と聞き、Jack Teagardenは「わさびとタバスコをかける」と答えます。Bing Crosbyは「世間の連中はタバスコの存在を知らないんだよ」つまり自分たちのバンドをタバスコに喩えたわけです。'The Cincinnati Kid'『シンシナティ・キッド』(1965)では、Edward G. Robinson(エドワード・G・ロビンスン)もニューオーリンズ名物の生牡蠣を食べて、「もう少しタバスコが欲しいね」と云いました。生牡蠣にタバスコは、どうやら定番の組み合わせみたいです。

Bing Crosby率いるバンドは、新天地シカゴを目指そうとしますが、彼らをニューオーリンズに留めたいヤクザが行く手を阻みます。バンドはBing Crosbyの部屋に押し篭められ、ヤクザの手下二名がドアの外で見張ります。バンドは楽器を出して練習を始めてヤクザを安心させ、Brian Donlevyだけ部屋を出てウィスキィを呑み出し、ヤクザたちにも勧めます。Bing Crosbyは彼ら自身で吹き込んだレコードを蓄音機にかけ、バンドの連中に楽器を持って抜け出せと合図します。これって、イギリスの喜劇映画'The Ladykillers'『マダムと泥棒』(1955)のトリックにそっくりです。もちろん、こちらの映画の方が14年以上も早いので、パクったとすれば『マダムと泥棒』の方ということになります。さらに、こちらではもう一捻りされています。ヤクザたちはレコードとは気づかないのですが、ジャズ・ファンではあるようで、「待てよ、あのコルネットは誰が吹いているんだ?」と指摘します。目の前で酒を呑んでいるBrian Donlevyが吹けるわけがありません。あわや計略は水の泡か?と思われますが、Brian Donlevyは「ピアニストがコルネットも吹けるのさ」と誤摩化します。ヤクザは「へえ、あんたに劣らず上手いじゃねえか」などと云います。

Mary MartinがEddie 'Rochester' Andersonにジャズの唄い方について質問する場面があります。少年時代のBing Crosbyが見事にクラシックとジャズを定義したので、ここでも素晴らしい返事を期待しましたが、Eddie 'Rochester' Andersonの返事はどうしようもなく曖昧なもので、よくあれでMary Martinがジャズ唱法を会得出来たものです。

Mary Martinの“叔母さん”というのが実は年端も行かない少女だったというギャグは面白いのですが、この少女はあまり物語に影響しません。アイデア倒れという感じ。

Bing CrosbyとBrian Donlevyの恋の鞘当てもよくあるパターンで、あまり芸がありません。私が“他愛も無い物語”と評するのは、上のような“傷”によるものです。

(March 19, 2007)





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