[Poison] Smokey and the Bandit
『トランザム7000』

【Part 2】

禁酒法は1933年に廃止されました。ただし、アメリカ全体で一気に解禁されたわけではなく、各州は独自のスケジュールで実施しました。最後の州で解禁されたのは1966年です。ただし、各州の中でも郡単位で禁酒法を維持しているところもあり、これらを"dry county"(ドライ・カウンティ)、解禁された州を"wet county"(ウェット・カウンティ)と呼びます。この映画の舞台であるジョージア州アトランタは"dry county"ではなく、1977年当時はビールが呑めた筈です。では、なぜCoorsを“密輸入”する必要があるのか?

鍵はトラック・レースの主催者が西部出身という点です。今でこそCoorsビールはどこでも買えますが、当時はローカル・ビールでしかありませんでした。コロラド州デンヴァーで製造され"Brewed with Pure Rocky Mountain Spring Water."(ロッキー山脈の清水で醸造されたビール)というキャッチ・フレーズのCoorsは、西部一帯で愛好されたビールでした。つまり、主催者の成金父子にはCoorsしかビールでなかったのです。

Coorsのパッケージには次のように書いてあります。「Coorsは創業以来120年間、1 mile(1.6 km)の高度で醸造を続けて来た。この高度の水と高地の麦が差をつける要素だ。我々が低地に下りて行くなどと、夢にも考えないで頂きたい」

しかし、禁酒法撤廃以来数十年経つのに、なぜアトランタでCoorsが呑めないのか?探したのですが、禁酒法のその後については適切な文献がありません。図書館に勤めている人物に聞いたところ、「当時はアルコール飲料には流通制限があり、Coorsはミシシッピ川以東では売れなかった筈だ。数本持って帰るには問題無いだろうが、400ケースとなると法律違反で捕まっただろう」とのこと。

つまり、アトランタで西部のビールをオーダーすれば、往復2800kmのドライヴが仕組める。しかも走破するのは"Deep South"(深南部)だから、このシェリフのような"red neck"(頑迷な田舎者)も登場させられるし、違法行為、暴力、汚い言葉、何でもありだ…という計算です。南部を馬鹿にしていますが、非常に巧妙な作戦です。

スピード違反を取り締まる交通警官はどこでも嫌われものです。オイル・ショックの頃、アメリカは高速道路での最高速度を89km/hに落とし、長くそのままにしていました(州によって違うものの、最近は104km/hに戻ったところが多い)。高速道路で89km/hは相当なノロノロ運転ですから制限を守る人は少なく、切符を切られた経験は誰にもあったと思われます。そういう人々にとっては鬱憤を晴らすのに最適の映画だったでしょう。

John Ford(ジョン・フォード)の'Stagecoach'『駅馬車』がぐるぐる円運動をしているだけで、モニュメント・ヴァリーから全然離れなかったのは有名です。この『トランザム7000』も実はジョージア州の二ヶ所だけで撮影していて、全く他の州に出ていないのです。よく見ると同じ背景が何度も登場するそうです。相当杜撰な撮影だったようで、飛んだアンテナがまた戻っていたり、取れたドアが次のシーンで付いていたり、メーターが出鱈目だったり、ミスは数え切れないほどあるとか。粗探しがお好きな方は、どうぞ:-)。

私の場合、プロットの粗探しの方が得意です。Jackie Gleasonは“密輸入”のビールを乗せたトラックを追っているわけではなく、逃げた息子の花嫁を乗せたトランザムを追っているわけです。Burt Reynoldsが仮に捕まっても、Jerry Reed運転のトラックさえ時間内にアトランタに着けば賞金は貰えます。彼はダチ公ですから金を持ってトンズラされる心配はありません。Sally Fieldだって神父に"I do."(誓います)とさえ云わなければ結婚させられることはありません。つまり、トランザムが必死で逃げ回る必要は全く無かったことになります。これじゃ映画になりませんけど。

ところで、Jackie Gleason演ずるBuford T. Justiceというシェリフですが、これは実在のシェリフの名前で、しかもBurt Reynoldsの父親だそうです。ただし、テキサス州ではなくフロリダ州のハイウェイ・パトロールだったそうですが。

アメリカ人にはこの映画のJackie Gleasonが可笑しくてたまらないようですが、わたしにはちっとも笑えません。彼がいい役者であることは百も承知ですが、ここでは演技過剰で、クサいと云っても云い過ぎではないでしょう。これは国民性の問題かも知れません。アメリカ人には寅さんを演じる渥美 清の演技を理解出来ないでしょうし、私には昔のJerry Lewis(ジェリィ・ルイス)やここでのJackie Gleasonの馬鹿げた芝居は、呆れるを通り越してうんざりです。シェリフの馬鹿息子に至っては吐き気がします。

この映画はCBの流行に拍車をかけ、Trans-Amの売れ行きを促進し、高速道路でパトカーを振り切ろうとする無法者を増やしたそうです。Coorsの売れ行きがどうなったかは不明。

なお、批評やヴィデオの感想のどれもが「続編は観ないように…」と忠告しています。二作目、三作目と作られたようですが、相当ひどいようですから近づかないようにしましょう。

(May 30, 2001) (Revised: June 13, 2001)


【追記】

上で「当時はアルコール飲料には流通制限があり」と書きましたが、新たな証言が得られました。当時、酒や煙草は州によって税率が異なったそうで(今でも消費税は州毎に違いますが)、例えば煙草の税率が低かったペンシルヴェイニア州で煙草を沢山買い、それをニューヨーク州に持って帰ることは違法だったそうです。この場合も、一般旅行者の数箱の煙草は問題ありませんが、数十カートンとか大きな数になると捕まったそうです。これが問題の核心のようです。

(July 07, 2001)





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