[Poison] The Red Badge of Courage
『勇者の赤いバッヂ』

【Part 2】

Audie Murphyが人気スターになったのは自分の回想録がベストセラーになり、1955年に'To Hell and Back'『地獄の戦線』として映画化されてからです。『地獄の戦線』は'Jaws'登場までの20年間ユニバーサル映画のドル箱となる大ヒットを記録しました。

戦史家が語るAudie Murphyの横顔を聞いたことがあります(History Channel)。テキサスの貧しい小作農の家に生まれたAudie Murphyは、学校も卒業せずに志願兵となりました。教育の無いことを恥じて引っ込み思案でしたが、常に妻子ある戦友をかばって自分が危険な役を引き受け、勇敢に闘ったそうです。『地獄の戦線』そのままです。

映画スターとなったAudie Murphyですが、戦争の緊張と恐怖が悪夢となって蘇り、睡眠薬を放せないようになってしまったとか。脇役として好演はいくつかあるものの、主演作は概ねB級西部劇でした。ビジネス旅行の途中、飛行機事故で死亡。遺体はアーリントン墓地に葬られましたが、Medal of Honor受勲者は「黄金の葉」の模様で飾られるところを、当人の希望で目立たない墓になっているそうです。人柄が出ています。

この'The Red Badge of Courage'『勇者の赤いバッジ』は『地獄の戦線』の四年前に作られました。デビュー後七作目です。

後半は'The Patriot'『パトリオット』(2000)のモデルになったような英雄譚になっていますが、印象的なのは死や負傷をもたらす戦場の恐怖です。“勇者の赤いバッジ”(戦傷)が題名となっている由縁でもあります。死を賭して進む兵士をよそに、鳥は歌い、木漏れ日が美しい。「生と死」の対比が鮮やかです。

捕虜となった南軍兵士に北軍兵士が「どこから来たんだ?」と聞くと、「テネシーだ」という答え。「テネシーの奴と話すのは初めてだ」「オレもニューヨークの奴と話すのは初めてだ」というやりとりがあります。殺し合いを演じてみたものの、どちらも同じ国の同じ言葉を話す、似たような人間だったことが分ったわけです。この時、南軍兵士が微かに浮かべる笑みが印象的です。

ある北軍兵士が眠りに就く前に神に祈る場面があります。多分、南軍兵士も同じ神に祈っていることでしょう。神はどちらに味方するのか?果たして、どちらか一方に味方するものでしょうか?宗教について考えさせられる一瞬です。

(December 07, 2001)





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