[Poison] Glory Alley

【Part 2】

この映画を褒める批評にはお目にかかったことがありません。脚本が安易なのと、監督もあまり気乗りがしないで仕事をしたように見えるからです。

冒頭の選手権試合を放棄したRalph Meekerが、洋服に着替えたあとリングに別れを告げに戻ります。空っぽの会場はまだ煌煌と電気が点いており、天井灯もリングを照らしています。どこの国にこんな勿体ないことをする興行主がいるでしょう。客に入場料を払い戻さなくてはならない上に電気代の無駄遣いをするなんて。

朝鮮戦争のシーンもおざなりで、金をかけないで撮影したことが明白です。チャチな橋を一個爆破したぐらいで名誉の勲章を貰えるなんて信じられない。'To Hell and Back'『地獄の戦線』(1955)のAudie Murphy(オーディ・マーフィ)の活躍に較べたら屁でもありません。Audie Murphyは本当の英雄でした。英雄が映画俳優になって自分自身を演じた希なケースです。

選手権試合放棄の理由もちっちゃなことなのです。彼の父は妻を殺し息子も殺そうとした。息子は命をとりとめたものの、頭部に49針も縫わなければならない大怪我をしていた。その縫合跡がRalph Meekerを若禿げのように見せるため、彼は常に帽子をかぶっていた。しかし、リングに上がるとそうはいかない。観客の一部から"Hey, Baldy!"(よう、禿げ男!)と野次られると、彼の胸は痛んだ。それが嫌でボクシングを止める決心をした…のだそうです。ね?馬鹿馬鹿しい理由でしょ?家族の死にまつわるトラウマは解るとしても、野次られてリングを下りるようじゃチャンピオンになどなれないでしょう。

恋人の父の目の手術に匿名で金を出すというのも、よくある和解の手段ですが、この映画では真実を知ってもKurt Kasznarは「手術代は返す!びた一文お前の施しは受けん!」と頑なです。普通は相手の好意を知ることが和解に繋がるものですが、ここの脚本はちょっと工夫されています。

Kurt Kasznarと和解したRalph Meekerは、また拳闘界に復帰し連戦連勝します。めでたしめでたし(怒ってはいけません。「たかが映画じゃないか、イングリッド」)。

(May 04, 2010)





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