[Poison] Aileen Wuornos: The Selling of a Serial Killer

【Part 2】

映画はその後、Aileen Wuornosのレスビアン友達だったTylia Moor(タイリア・ムーア)に焦点を当てます。映画のChristina Ricci(クリスティーナ・リッチ)のように若くも小さくもない、一見Aileen Wuornosと同年代に見える女性です。彼女は五年も一緒に暮らしていたのに、Aileen Wuornosが逮捕されると自分も罪に問われるのが恐くなり、Aileen Wuornos一人に罪をかぶせようとして検事と取り引きします。電話でAileen Wuornosが罪を犯したことを認める内容を警察官に録音させ、「家族が迷惑してるの。あたしは何もしてないって云って」と誘導し、Aileen Wuornosに「あんたは何もしていない。そう云うから安心して」と云わせています。

実はこのTylia Moorと彼女の弁護士は、Aileen Wuornos逮捕に関わった三人の警官とぐるになって、ハリウッドにこの事件の映画化権を売る交渉をしていたことが分ります。

Nick BroomfieldはTylia Moorを調べていた当時の警官にインタヴューします。彼は「(Tylia Moorについて)知っていることは何も喋るな。喋ると家族が危ないぞ」という脅迫状を受け取り、自宅が荒らされたりしますが、警察も検事もFBIも無視したそうです。

私の想像ですが、検察側はTylia Moorの免責を条件に証人としたかったので、Tylia Moorのあら探しは迷惑だった。ただ、正面切って「捜査から手を引け」とは云えないので、警察内部(多分映画化権を売ろうとした連中)を使って脅迫させたのではないでしょうか。これはハリウッド映画によく出て来る手段です。なお、幻滅したこの警官は辞職し、別の町で私立探偵になったそうです。

Nick Broomfieldは義母Arlene Pralleに$1,250払ったものの、大した話も聞けずに、その後のインタヴューを拒否され、口論になります。

ついにインタヴューに応じたAileen Wuornosは「義母Arlene Pralleも弁護士Steve Glazerも金を欲しがる連中だ。Arlene Pralleは本当に養母となったわけじゃなく、面会に来る方便として縁組みしただけ。残りの裁判を争わないという方針はArlene Pralleの考えで、弁護士Steve Glazerがそれに賛成した。二人の動機は金を得ることだった。二人とも私に自殺を勧めた。その方法までも。母親や弁護士とは思えないじゃない?誰も私の味方じゃないの。反吐が出るわ」と云った。また彼女は「正当防衛は本質なんだけど、連中は(死体の)数が問題なんだと云う。正当防衛でも七人は多いってわけ。男たちの二人は本気であたしを殺そうとしたし、他の五人もそのつもりだったのに…」と云う。

Nick Broomfieldは映画化権についてハリウッドと交渉したTylia Moorの弁護士や三人の警官を取材しようとするが、全部断られた。数年後、シェリフはこの件でハリウッドと関わり合った三人の警官を馘にした。

…と、この映画は以上のような物語になっています。しかし、私にはNick Broomfieldが何を求めてドキュメンタリーを作ろうとしたのかよく解りません。ある批評で「Nick Broomfieldのやり方はテーマを掘り下げるというより、犬も歩けば棒に当たる式である」と書かれていましたが、全くその通りに見えます。

普通ならAileen Wuornosが15歳で売春を始めるまでに何があったのか、父や母をどう思っていたのか、フロリダへ来るまでにどうしていたのか、Aileen Wuornosは男性嫌いなのか、セックス嫌いなのか、生命についてどう思っているのか等々、知りたいことは山ほどあるのに、Nick Broomfieldは何も調べないし、語りもしません。構成も行き当たりばったり、あっちへ行き、こっちへ行きします。

多分、Nick Broomfieldの頭には"Selling the serial killer"(連続殺人犯の売り込み)というタイトルは、取材途中まで浮かばなかったでしょう。最後になって、Aileen Wuornosが「(義母と弁護士の)二人の動機は金を得ることだった」という言葉で閃いたのではないでしょうか。

(January 10, 2011)





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