January 01, 2024
●ヒットダウンへの近道(ヒットダウンの研究・その2)
'The Impact Zone'(2007)の著者Bobby Clampett(ボビィ・クランペット)によれば、ヒットダウンするにはボールの10センチ前方を見つめながらヒットすべきだそうです(右図)。その地点を目掛けてクラブのリーディンエッジを下降させ、クラブヘッドはボールを打った後、10センチ先の地面でディヴォットを取る…というメソッドです。【註】Bobby Clampettは「10センチというのはあくまでも目安であって、身長やクラブの長さなど個人の条件によって変更すべきものだ」と云っています。
つまり、現実のボールを見ながらショットするわけではなく、10センチ先の”仮想”のボールを打つわけです。これはバンカー・ショットでボールの後ろ数センチのところを打つのと同じeye-hand coordination(アイ=ハンド・コーディネーション、手・腕の協調作業)の利用であり、これも仮想ボールです。
なぜバンカーで仮想ボールを打つかというと、バンカーショットはボールそのものを打つのではなく、ボール後方2.5センチのところの砂を打ち、それが引き起こす”津波”によってボールをバンカーから出すわけです。
私は飛距離増を願ってボール後方28センチのところでアドレスしますが、実際のボールを見て打つと盛大なてんぷらになります。それを避けるには構えたドライヴァーの直近にボールがあると考え、そこを見つめながらスウィングしなければなりません。これも仮想ボールです。
人間のスウィング弧というのは、どこで最低点に達するか決まっています。David Leadbetter(デイヴィッド・レッドベター)によれば、「胸骨(みぞおちの上にある骨)の位置が、常にスウィング弧の最低点となる。ボールの真上(か、やや前方)に胸骨を揃えることによって、クラブヘッドが地面より先にボールと接触する下降気味のショットを実現する」と断言しています。【参照:「チッピングとピッチングでは胸骨にボールを揃えよ」(tips_141.html)】左腕をちゃんと伸ばしたアドレスをし、正しく体重移動し、ちゃんと左腕を伸ばしたインパクトを心掛ければ、必ず胸骨の真下がスウィング弧の最低点となることに決まっているのです。
だとすれば、ボールの前方10センチを胸骨の位置と定め、そこに仮想ボールがあると考えてアドレスすればいいのではないか?そこを狙えば自動的にクラブは下降中にボールを捉えてバックスピンをかけ、その後スウィング弧の最低点(胸骨の位置)でディヴォットを取ります…(うまくいけば)。
・Bobby Clampett《ボールの10センチ前方の地面を狙って打て》
・高野英二《ボールの10センチ前方に胸骨を揃えて打て》
コペルニクス的転回です。
段取りですが図の左側を御覧下さい。ボールの前10センチでアドレスし、そこに胸骨が来るようにスタンスを調節します。その後クラブをボールの後ろに置きますが、目はその後最後まで図の★に据えたままスウィングします。★はディヴォットを取る予定地です。つまり、「ボールの先10センチを狙う」という曖昧なものではなく、そこがスウィング弧の最低点となるように、身体をあらかじめセットしてしまうのです。
これは実は図の右側のようなチップショットで既にやっていることです。チッピングのボール位置は「右足甲の前方」(図の黄色の点線)が推奨されていますので、ボールと右足の位置関係はこの右図と全く同じことです。「右足甲の前方のボール位置」はヒットダウンするためのボール位置だったのです。ですから、チッピングの場合もボール前10センチ(★)に胸骨が来るようにクラブを構え、その後実際のボールの後ろでアドレスしますが、目はボール前10センチ(★)を凝視しながらショットを遂行します。
このメソッド、練習ラウンドでちょっと試してみましたが、うまくいけばこれは素晴らしい。3番ウッドもアイアンも、ロブウェッジでさえも真っ直ぐ飛びます。よく考えればこんな簡単なことを世界中のインストラクターが思いつかない方がおかしいほどです。《ヒットダウンするにはボール位置を胸骨の10センチ後方にすればよい》。なぜ、これが一般に広まっていないのか?
理由は簡単、難しいからです。ゴルファーの本能としてどうしても実際のボールを見てしまい、それを打とうとします。これをやるとひどいプッシュになります(経験者は語る)。絶対に仮想ボール(★)の位置から目を離してはいけないのです。バンカー・ショットもボールでない所を見るのですが、バンカー・ショットは多くて日に二、三度でしょうから特別です。ヒットダウンはドライヴァーとパターを除く全てのショットで遂行されなくてはなりませんので、「常にボール前方10センチでアドレスし仮想ボールを打て」…なあんて酷なことを週一ゴルファーに云えるインストラクターなどいないんでしょう。
仮想ボールを凝視することに慣れている私は、もう少し練習してみるつもりです。実戦に役に立つものかどうか、はてさて…?
(January 01, 2023)
●ヒットダウンの研究・インターミッション
上記「ヒットダウンへの近道」を執筆した直後、三週間にわたるタチの悪い風邪で寝込んでしまいました。「近道」が役に立つものかどうか確かめたいと、やきもきしながら臥せっておりました。『旅に病んで夢はフェアウェイを駆け巡る』の心境。
寝ながらでも本は読めるので、名人、名コーチが「ヒットダウン」についてどう云っているか調べてみました。驚くことにほとんど言及されていません。Harvey Penick(ハーヴィ・ピーニック)の四冊の本では完全に無視。Jack Nicklaus(ジャック・二クラス)は彼の'Golf My Way'で「かのHarry Vardon(ハリィ・ヴァードン)はロング・アイアンを打つ名人だったが、どのクラブでも滅多にディヴォットを取らなかった。多くのゴルファーもロング・アイアンで掃くようなスウィングで打てば、計り知れぬほど上達するであろう」と肩透かしです。
唯一の例外はBen Hogan(ベン・ホーガン)で、『モダンゴルフ』の九年前に出版されてやや影が薄い’Power Golf'(1948)で次のように述べています。「アイアンのダウンスウィングではウッドよりも敏速に体重を左足に移さなければならない。体重が右に残ったままだとボールの後ろでディヴォットを取ることになる(=ダフリ)。速めに左足に体重を移した時にだけボールの前方でディヴォットを取ることが可能になる」…これだけです。ボールの前◯センチでディヴォットを取れなんてことは欠片(かけら)も出て来ません。
Ray Floyd(レイ・フロイド)は彼の'The Elements of Scoring'(1998)という本で「ツァー・プロでさえ市営ゴルフ場等の荒れた固い地面から痩せたグリーンに向かって打ってボールを転がり戻すスピンなんか掛けることは不可能。こういう状況ではボールをソリッドに打てるだけで満足すべきだ。多くの場合、スピンを求めるのは不必要であり、ゴルフを難しくするだけだ」
ゴルフの百科全書とも云うべき’Golf Magazine's Complete Book of Golf Instruction'(1997)は、方向コントロールなどにはかなりページを費やしている本ですが、「ヒットダウン」についてはホンの一言「攻撃角度が急であればあるほどバックスピンを生んで高度を増し、飛距離を減らす」とあるだけ。
Butch Harmon(ブッチ・ハーモン)は「シャープなヒットダウンは無用である」(tips_128.html)において、「未熟なゴルファーがシャープなヒットダウンを試みると、トップやダフリを生じる」と警告しています。
Bobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)が1966年出版の本’Bobby Jones on Golf'で「どのショットもクラブが下降するスウィング弧を描いている最中にボールと接触すべきである」と述べているのに、誰もそれをフォローしていない。まるで業界内で「ヒットダウンを実行するのはいいが絶対に他言するな」という箝口令を敷いていたかのような印象です。
2007年にBobby Clampettが'The Impact Zone'という本で「ボールの前(ターゲット側)10センチでディヴォットを取れ」と云い出すまで、Bobby Jonesから実に40年の空白がありました。
一般のアマチュア・ゴルファーには「ヒッター」は少なく「スウィンガー」が多いと云われます。後者は掃くような浅い軌道のスウィングをする人々です。私もスウィンガーの一人。掃くような軌道から急角度でボールに向かって打ち下ろす軌道に変えるのは難題かと思われます。
ヒットダウンに成功したとしても、Ray Floydの云うような荒れた固い地面、痩せたグリーンでプレイしているわけですから、バックスピンのご利益は得られないかも知れません。
なにやら夢が萎むような一抹の寂しさを感じます。しかし、私はいったん見極めようとしたことにはこだわる性格です。「今回の研究は頓挫しました」と報告する日が来るまで練習・検証し続けます。そのためにも早くこの病気に身体から出て行って貰わなくてはなりません。
(January 01, 2023)
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