February 01, 2024
●'The Golfing Machine'(ゴルフィング・マシン)物語
1969年に初版が発行された'The Golfing Machine'(ザ・ゴルフィング・マシン)という本は、何度か改訂版も出され、そこそこ売れていたのですが、現在書店での購入は出来なくなり出版元(https://www.thegolfingmachine.com/product/the-golfing-machine-7th-edition-by-homer-kelley )から直接購入(本体$46.95)だけとなっています。
当サイトでは「The Golfing Machine(ゴルフィング・マシン)」(tips_87.html)と「続・The Golfing Machine(ザ・ゴルフィング・マシン)」(tips_131.html)の二回にわたって紹介していますが、どちらも「難解である」ということを強調していました【それがこの本の定評でもあります】。
しかし、次の本を読んで難解であることの謎が氷解しました。
'Homer Kelley's Golfing Machine'
by Scott Gummer (Gotham books, 2009)
普通われわれが手にするツァー・プロやインストラクターの本は、(正しかろうと間違っていようと)「ああせい、こうせい」というメソッド(方法、手順)が書かれているものですが、'The Golfing Machine'はメソッドでなく物理的・幾何学的なシステム(体系)を解説したインストラクターのための本なのです。云ってみれば「ゴルフ・スウィングの解体新書」。ゴルフ・スウィングというのはゴルファーによってアップライトだったりフラットだったり千差万別でグリップ、アドレス~インパクトまでの動作の組み合わせは千兆にも達するそうですが、そのどれかをいい悪いとは云えません。「こうするとこうなる」ということしか云えないのです。Jack Nicklaus(ジャック・二クラス)とLee Trevino(リー・トリヴィノ)のスウィングは似ても似つかぬものですが、両者ともメイジャーに優勝しています。
'The Golfing Machine'の著者Homer Kelley(ホーマー・ケリィ、1907~1983)の人生初めてのラウンドのスコアは116でした。彼は六ヶ月ゴルフせず、再度挑戦したらなんと77で廻れました。彼は色んなインストラクターになぜそうなったのか説明を求めましたが要領を得ない。そこで独りでコツコツと研究を重ね、その結果を29年後(1969年)に'The Golfing Machine'として自費出版しました。幸い、「これが私の教えたかったことだ」と感銘を受けたインストラクターが他のインストラクターたちを招いて、Homer Kelleyに説明会を催させたりして次第に信奉者が増えて行きました。
極めつけはBobby Clampett(ボビィ・クランペット、1960~)の登場でした。六歳でゴルフを始めた彼はたまたま'The Golfing Machine'を教科書とするインストラクターに師事し、大学時代までにアマチュア・トーナメントを総なめにし、彼が'The Golfing Machine'という本を研究していたことを公言したため、ついにゴルフ雑誌等も'The Golfing Machine'に興味を持つようになりました。
1982年ロイヤル・トルーンでの全英オープンにBobby Clampettが第三ラウンドまで二位に五打差という大量リードでトップに立ったため、'The Golfing Machine'は世界中が注目するところとなりました。惜しくも、彼は最終ラウンドで大叩きして11位に終わりましたが、彼の名と'The Golfing Machine'を広めるには絶大な効果がありました。
1982年に六版を出した後、1983年のある説明会の席上Homer Kelleyは心臓麻痺で亡くなってしまいます。未亡人は亡夫の96ページにも及ぶ手書きのメモを見つけ、それを網羅した第七版の出版を考えましたが、実現には至りませんでした。なお、次のような驚くべき一節があります。
「その頃、日本のビジネスマンが未亡人に接触して来て、日本語版を出版したいと申し出た。ただし、本の中の女性による説明写真は全て男性で撮り直さねばならないと云った。日出ずる国では女性がゴルフ・クラブを振るというのは許されないことだったのだ」
Martin Hall(マーティン・ホール、The Golf Channel『ゴルフの学校』講師)も'The Golfing Machine'を聖書のようにしてコーチし、名声を確立していました。彼の門を叩いた若者の一人はMorgan Pressel(モーガン・プレッセル、当時9歳)で、彼女は'The Golfing Machine'という本を読んだことはありませんでしたが、Martin Hallの薫陶を受け、12歳で全米女子オープンに出場を許され、18歳でメイジャー・トーナメントに優勝しました。最近の彼女はゴルフ・チャネルでLPGAトーナメントの解説をしています。
現在ではBryson DeChambeau(ブライスン・デシャンボー、2020年全米オープン優勝者、写真)が'The Golfing Machine'を愛読し、実践しているプロの一人です。
(February 01, 2024)
●'The Golfing Machine'(ゴルフィング・マシン)の理解出来るポイント
'The Golfing Machine'(ゴルフィング・マシン)という本は「こうスウィングせよ」とかtipsを並べた本ではありません。とはいえ、誰もが守るべきポイントが見当たらないわけではないので、それらを列挙してみます。これらは今回原書を読み直して(三回目)解りやすい部分だけをピックアップしたものであり、'The Golfing Machine'の全貌あるいは骨子というわけではありませんのでお間違えなく。
'The Golfing Machine'
by Homer Kelley (Star System Press, 1982)
「・アドレスでは左腕を出来るだけボールから遠ざけるべきである。【=左腕・手を伸ばしたアドレス】
・ゴルファーの目には、アドレスで両手が左爪先のごく近くか左爪先全体を覆うように見えるべきだ。これはプロと物好きゴルファーとを隔てるものである。
・右手はクラブヘッドをコントロールし、左手はクラブフェースをコントロールする。
・ダウンスウィングは足の近くの身体部品から始まり、次のような順序で動く:膝→腰→肩→腕→右肘→左手首→アンコック→手の回転。
・アドレスとインパクトの位置は全く異なるものだ
・クラブヘッド・ラグ(=レイト・ヒット)こそはゴルフの秘訣である。(写真)【編註:身体の捻転と、インパクト寸前までコックを保つことがラグを可能にする】
・スウィンガーは(ヒッターとは異なり)遠心力を操作するテクニックに全面的に依存している。遠心力だけがスウィンガーの手首をアンコックする。ヒッターにとっては、右腕の突進がそれに当たる。
・Aiming point(狙い所)はボールではない。バンカー・ショットのようにボールとは別のところである。
・インパクトの瞬間、左手首は(凸でもなく凹でもなく)フラットでなければならない。左手首を折るとクラブフェースの向きを不安定にする。【編註:私はこれをパッティングだけに適用していたのですが、全てのショットで必要なのでした】
・バックスピンがかかっていないボールは左右にぐらぐら揺れながら飛ぶ。オーヴァースピンは上昇するエネルギーがなく、ダックフックとなる。
・ボールを地面に埋め込むようにスウィングせよ、宙に浮かべようとするのではなく。【編註:これすなわちヒットダウン】
・ボールは常にスウィング弧の最低点以前に(下降軌道によって)打たれるべきである。上昇軌道で打つことはダッファーを製造し、多くの場合トップ・ショットに繋がる。【編註:上記五項目がBobby Clampett(ボビィ・クランペット)のThe Impact Zone'という本のアイデアに繋がったと思われます】
・ディヴォットを取るとか取らないとか意識的に試みるべきではない。それはボール位置とスウィング・プレーンの角度によって決まるべきものだ。
・方向の舵を取ろうとすることは誤動作のナンバー・ワンたるものである。ボールでなく、グリーンに向かってクラブヘッドの舵を取ることはフラットな左手首を崩壊させてしまう。
・インパクトで左肩は右より高い位置にある(写真)。【参考:「左脇を締め挙げろ」(tips_94.html)、「左肩を挙げよ」(tips_199.html)】
・右肩を後方に留めるだけでなく、下方にも留めるべきである。
・ボール・スピードはインパクトの前とインパクト後のクラブヘッド・スピード次第である。【編註:インパクト後のスピードも重要であるということ】」
(February 01, 2024)
Copyright © 1998−2024 Eiji Takano 高野英二 |