February 20, 2022

バンカー・ショットを会得してスコアを減らす

 

[bunker shot]

バンカー・ショットは一般にことさら難しく教えられていると思います。図のように「ボールの2インチ(約5センチ)後ろを打て」とかなんとか…。しょっちゅうダフったりトップしたりするわれわれトーシロにボールの5センチ後ろに正確にクラブヘッドを打ち下ろすなんて無理な注文というものです^^。

プロやインストラクターたちが上手にバンカー・ショットした後、ボールの後ろ何センチだったかを物指しで計ったら平均5センチ前後だった…というだけであって、プロやインストラクターたちも正確に5センチ後方を目指したのではないように思われます。

そもそもボールの後ろ5センチってのが果たして根拠のある数字なのか?The Masters(マスターズ)とPGA選手権に優勝し、ゴルフ名誉の殿堂入りもしているJackie Burke, Jr.(ジャッキィ・バーク二世、1923〜)は次のように云っています。「グリーンサイド・バンカーでは、出来るだけ高く砂を抛り上げるように。この考えはボール後方約4インチ(約10センチ)の砂を正しい量を取ることを助けてくれる。これがボールをピンに近づける鍵である」ね?彼は5センチではなく10センチと云っています。

[sole]

有名なTV解説者兼インストラクターのPeter Kostis(ピーター・コスティス)はこう説明します。「ボールの何インチ後ろを打たねばならないとかいうのは神話である。思ったより大雑把でいいのだ。ボールの後ろの2〜6インチ(5〜15センチ)のどこかしらで、十分満足出来る結果が得られる」…と。ボールの後ろ何センチにクラブを突入させようが、そこから鍋物の灰汁を掬うようにクラブヘッドを平行に横移動させ、砂の津波を起せばいいのです。あるセオリーによれば「もしボールに近いところにクラブを突入させたらボールは低く出てランが多い、ボールから遠くに突入させたら飛ぶ距離は長いがランが少ない、かくしてどっちのボールも同じ距離に到達する」とされています。「大雑把でいい」…これがバンカー・ショットの真の姿なのです。

あるインストラクターが12ヤード(約11メートル)のバンカー・ショットを実演した後、どれだけの分量の砂を抉(えぐ)ったかを調べたら、平均170グラムだったそうです。これは大きめの飯茶碗一杯のご飯の量に匹敵します。その分量を弾き出すには、《草の上で打つ時の三倍ハードにスウィングする》必要があります。

バンカーでスウィングする際はバウンス(クラブ底部の膨らみ)が、クラブヘッドが砂にめり込むのを防ぐ役目をします。《バンカーではクラブフェースをオープンにする》という理論は、このバウンスを剥き出しにして効果を挙げるためです。重要な考え方は《リーディング・エッジでボールを打つのではなく、クラブのソールで地面を打つ》ということです。ソールが砂の津波を起し、ボールと接触せずに砂を押し続けてボールを弾き出すわけです。ボールを打つという時、われわれはどうしてもリーディング・エッジを考えてしまい、ソールで砂を打つなんて想像も出来ませんが…。【注意】 砂が湿っているなんて状態を遥かに越えて硬く固まっている場合は、裸地と同じでサンドウェッジのソールが地面で撥ね返されてしまいます。こういう場合はピッチングウェッジの鋭いリーディング・エッジを使うべきだそうです。

なお、クラブフェースをオープンにするのはグリップを固める前にやっておく必要があります。グリップしてからそれをオープンにしても役に立ちません。

[bunker impact]

右の写真はあるインストラクターのアドレスとインパクトの二つの瞬間を重ね合わせたものです。超高速度撮影ではないので、見えているクラブはアドレス時のものであり、インパクトの瞬間クラブは見えず砂煙しか写っていません。アドレス時、クラブのバウンスは剥き出しになっています。そしてボール(赤丸)のかなり後方(緑色矢印)で砂に突入し砂の津波を巻き起こすことでボールを弾き飛ばしています(ボールとは直接接触しない)。この写真では5センチ後方どころか、凄く遠い距離から砂を取り始めています。写真を計ってみるとボール四個分なので、約17センチ。大雑把でいいという証明です。

色々模索していて、次の発見をしました。これは200冊以上のゴルフ本読破、20年余のゴルフ雑誌購読でも出会わなかった新発見です。バンカー外の通常のスウィングのボール位置は胸骨の真下が最適であると云われます。バンカー・ショットの練習で試しにボールを胸骨の真下、その右や左など位置をずらして打ってみました。この練習の結果判明したことは、ボールとの関係ではなくクラブヘッドを打ち下ろしたい場所に胸骨を揃えるのが正しいということです。胸骨の位置がスウィング弧の最低点となるので、ボールの10センチ後方にクラブヘッドを打ち込みたいなら、ボールの10センチ後ろに胸骨を揃えるべきなのです。そしてスウィングの間中、ボールではなくその後方10センチの砂の部分を凝視する必要があります。ボールを見てしまうと「アイ=ハンド・コーディネーション(目と手の協調作業)」の作用で、スウィング弧の最低点がボール方向に移動してしまう恐れがあります【結果はトップ】。

私の通常のショットは、左膝を内側に押し込んで左右の脚の長さの違いを相殺するのですが、バンカー・ショットでは右膝を内側に押し込みます。右脚が長いと自然にアウトサイド・インのスウィング軌道になるため、通常のショットではそれを相殺しないといけないのですが、バンカーではどっちみちアウトサイド・インのスウィングをすべきなので、左足体重の安定したスタンスの方が望ましいからです。

乾いたバンカーで砂の津波によってボールを弾き出す場合、手には砂を運んだだけの「ふわっ!」とした感触しか残りません。あまりの手応えの無さに「ショートか?」と思ってしまいますが、三倍の強さで打っていれば選んだクラブ通りの距離が得られます。湿った砂では「ドスッ」という重い音がします。「ガツン」という手応えはボールを打った音ですから、いいバンカー・ショットではありません。

バンカー・ショットのコツとしてあまり語られないのは、強めにコックすることです。アドレスで腕を下げて最大限低く構えると手首が折れて自然にコックされますが、そのコックを維持しながら(というか、コックを強めて行く気持で)バックスウィングします。これはヒールを寝せてヘッドが一定の深さで砂の中を滑走することを確実にします。三倍の強さで打つには力だけではなく、コックの助けが必要です。

伝説的インストラクターHarvey Penick(ハーヴィ・ピーニック)は、「バンカーではグリップエンドが股間を指すように構えろ」と云いました。バンカーではハンド・ファーストではなく、“ハンド・ラスト”です。手を下げ、なおかつグリップエンドが股間を指すようにすれば、オープンフェースを保つことが保証されます。

伝統的インストラクションは、この記事の最初に掲載した図のようにスタンスもオープンにし、スタンスラインに平行(アウトサイドイン)にスウィングせよという教えです。オープンフェースのクラブでアウトサイドインにスウィングすれば物理的にボールはターゲットの右へ飛ぶことになります。ですから、ボールを打つ前にターゲット(ピンなど)の左にスタンスを揃え、右へ出てもいいように備えます。

スコアを減らすためにはただ出すだけではなく、ピン傍に寄せたいもの。距離調節のためには打つ強さやクラブの突入地点を変えるよりも、クラブを変える方が簡単です。どのクラブでどの距離になるかは人それぞれでしょうが、私の場合は60°ウェッジで10ヤード、サンドウェッジで13ヤード、ギャップウェッジで16ヤード、ピッチングウェッジで20ヤード、9番アイアンを少し短く持って25ヤード…という感じです。さらさらの砂で抵抗が強いと少し距離が減ります。

Jack Nicklaus(ジャック・ニクラス)は「バンカー・ショットはゆっくり打て」と説きましたが、われわれがゆっくりスウィングするとどうしても力が弱まります。草の上からのピッチングの三倍の強さで打つにはパワーが必要です。ゆっくり打ったとしても飯茶碗一杯の砂を弾き出すには断固たる強さが欠かせません。慌てる必要は全くないとしても、腰砕けのスウィングでは砂に負けてしまい、砂を弾き出せません。

スィングの最後に不可欠なのは《高いフィニッシュをすること》です。三倍の強さでスウィングすれば自然にそうなるとはいえ、意識的に毎回フル・フィニッシュを心掛けるべきです。

ボールからピンまでの距離が近かったり、顎が低いとついバンカー・ショットを甘く見てチッピングのようにソフトに打ってしまい、大幅にショートします。《バンカーでは通常より三倍強く打つ》という法則を貫くには、どのバンカーでも右の写真のような顎の高いバンカーであると想定すべきです。このような高い顎だと普通のピッチングやチッピングの強さではまず出ないし、出てもかなりショートするに決まっています。ボールを適切な距離に運ぶには、大きな断固たるスウィングをしないといけません。

 

【参考】
・どれだけ砂を取るべきか(tips_143.html)
・ソールで砂を打て(tips_199.html)

(February 20, 2022)

湿ったバンカー・ショットのコツ

 

'Golf Magazine's Complete Book of Golf Instruction'
by editors of Golf Magazine (Harry N. Abrams, Inc., 1997)

「湿った砂は固くてクラブヘッドの進入を拒むので、クラブヘッドは砂を掘るよりは撥ね返されてしまって、多くのゴルファーにとってボールを高く上げるのが難しい。しかし、スコットランドのコースでよく見られるこの湿って締まった砂のコンディションを好む上級ゴルファーも多い。もしクラブヘッドを正しく働かして攻撃的なスウィングをコントロール出来るのなら、ボールの下で砂の層を薄く払うように削ぐことが出来る。このショットはグリーンに着地するや否や停止する。

《セットアップ》

・オープン・スタンスで、両足・両膝・腰・肩をターゲットの左に揃える
・ボール位置は左踵の前(頭を後方に留め、クラブヘッドをボールの下で滑らせ、ボール軌道を高くするため)。
・バウンスの少ないサンドウェッジか60°かそれ以上のロブ・ウェッジを用いる。
・クラブフェースが空を向くほどオープンにし、クラブを約4インチ(約10センチ)短く持つ(これはアップライトなスウィング・プレーンを作り出し、掬い上げるようにクラブが砂を打つ)。

《バックスウィング》

・下半身を動かさないようにし、手と腕でスウィングする。テイクアウェイで早めにコックする。【編註:左手首を凹型にする】

《ダウンスウィング》

・オープンなクラブフェースをしっかり保持する(もしクローズにするとボールは左へ飛んでしまう)。

・通常の「ボール後方2インチ(約5センチ)」ではなく、3インチ(7〜8センチ)後方にクラブを突入させる。(湿った砂は固く締まっているので、クラブは砂を深くカット出来ない。ボールのかなり後方を打つとパワーが削がれるが、加速させてフォロースルーを達成すべく努力すること)。

[icon]

「ボール後方7〜8センチを打つ」というのは、その地点でヘッドが撥ね返されてトップしそうですが、Yuotubeヴィデオに「湿った砂では2〜4インチ(5〜10センチ)後方を打て」というのがありますから、別に異常ではないようです。

実際にやってみました。砂の津波を起す距離が長くなるので、その分渾身の力で振り抜かなくてはなりませんが、この手法でなら湿って固い砂からでも出せます。25ヤードのショットにボールの10センチ後方に胸骨を揃え、9番アイアンを使ってみましたが、四発打った三発までがワンピン以内に寄りました。

《ヴィデオ》 「5〜10センチ後方を打て」 湿った砂のショットはヴィデオの後半。

 

(February 20, 2022)



[Anim

 Copyright © 1998−2022   Eiji Takano    高野英二
[Mail]
 Address: Eiji Takano, 421 Willow Ridge Drive #26, Meridian, MS 39301, U.S.A.