February 10, 2022
●メンタル・タフネスを身につけてスコアを減らす
あるインストラクターは「ゴルフは90%メンタルだ。そして残り10%もメンタルだ」と云いました。メンタルな影響をコントロール出来れば、かなりのミスを防げスコアを減らすことが出来るでしょう。
歌の文句に「明日は東京に出て行くからは なにがなんでも勝たねばならぬ」というのがありましたが、これは無茶苦茶です。なにがなんでもバーディを得なけりゃならぬとか、是が非でもパーを得なけりゃならぬ…と念力で都合良く事が運ぶものなら物事は簡単ですが、そうは問屋が卸しません。ことゴルフでは、必死になればなるほど筋肉が硬直して目論見に失敗することが多い。
以前の賞金王だったTom Kite(トム・カイト)のテンション解消法は素晴らしい。「不安が忍び寄って来たら、中国の14億人の人たちを思い浮かべるべきだ。彼らはあなたの一打のことなど知っちゃいない。彼らにとってはどうでもいいことなのだ」これは名言です。確かに、こちとらにとってはこのバーディ・パットが80を切れるかどうかの正念場であったり、ライヴァルを打ち負かす一打差だったりすると、「入れたい!」という願望・欲望が頭を占領し「なにがなんでも入れねばならぬ」という心境になってしまいます。その時、遠く中国で自転車通勤をする人の群れ、痩せた土地を黙々と耕す中国農民たちの姿などを思い浮かべれば、「おれのやってることはたかが遊びじゃないか。このパットが入ろうが入るまいが中国人民にとってはどうでもいいことなんだ」という気になります。筋肉の強ばりが解け、瞬時にリラックス出来ます。
かように自分自身をコントロールするメンタル操縦法は重要です。これを知ると知らないではスコアに大きく影響します。そして、次の三つの要素の役割も知らなくてはなりません。
《左脳の働き》
・状況の分析
・クラブ選択と作戦の決定
・ライや芝目など細部への注目
・アライメントの調整
《右脳の働き》
・ボール軌道の視覚化
・中間クラブが必要な場合の距離の推定
・フィール、タッチ、テンポの醸成
・トラブル・ショットにおけるイマジネーション
《潜在意識の働き》
潜在意識は筋肉による動きを遂行します。われわれは誰かのボールをOKする時、地面からボールを拾い上げて、距離だの軌道だのを考えることなくポンと相手に向かって投げますが、それは常に正しい距離であり暴投やショートなどはあり得ません。これは潜在意識が瞬時に筋肉に命じて正しい動作をするからです。これは長期間泳いだことがなく自転車を漕いだこともないのに、手順を考えることもなく難なく泳いだり自転車に乗れる能力と同じです。
ゴルフ・ボールを打つ際、われわれに必要なのは1) 左脳による状況分析(距離、クラブ選択、打ち方などの戦略決定)、2) 左脳が決定したショットを右脳で視覚化、3) そのイメージを潜在意識に引き継ぎショットを遂行させる…という段取りです。
上の1〜3は順番を混乱させてはいけません。右脳や潜在意識に任せるべき時点でなおも左脳がぐずぐず居残って出しゃばっていると、右脳も潜在意識も出番がなく(というか出るのを妨害されて)能力を発揮出来ません。
○ショット以前
言語を操るのも左脳です。戦略を決定し、ボール後方で右脳によって視覚化しようとしたその時、仲間の誰かが冗談を云ったとします。左脳は本能的にそれを聞き取り分析します。同伴競技者がティーグラウンドに上がっているのに何か喋るのはマナー違反ですから、静粛になるまで素振りを何度も繰り返すか、ターゲットを見つめながら静止しているのがベストです。乱された集中心を取り戻すための異常な長さのルーティーンによってあなたが苦労していることを知った仲間は恥じ入ることでしょう。この時冗談を聞き流せず、反応して何か喋ったりすると最悪です。左脳は右脳に業務を引き継げませんから、仮にターゲット方向に目を向けていたとしてもとても視覚化など実行出来るものではありません。右脳が与えてくれるべき目標が得られないので潜在意識もどう筋肉系統に指令すればいいのか途方に暮れ、不見転で身体を動かすことになります。これはミス・ショットへの特別急行です。喋った後少なくとも30秒経ってから打つこと…と云われています。
上級者と廻っている時、あるいは知り合いの同伴競技者たちが、あなたのスウィングを顕微鏡で見るようにつぶさに分析していると思ったら大間違い。あなた自身の心理状態を振り返ってみれば明瞭ですが、人々は「このホールどこを目標に打とうか」「前のホールではプッシュしたから注意しよう」「もっとゆっくりスウィングしなきゃいかんな」などと自分のゲーム内容に専念しており、あなたのスウィングへの関心などほぼゼロです。聞かれた場合どっちへ飛んだかは云わなくてはならないので、ボールの行方を見てはいるでしょうが、あなたのスウィング分析などに興味を抱いていません。ですから、「見られている」と思うのは自意識過剰です。リラックスして打てばいいのです。
○ショット
'Vision54'というインストラクター・グループは「二つのボックス」という概念を提唱しています。図のようにボールの背後の「思考ボックス」で左脳・右脳の作業によって戦略・ショットのイメージを構築したら、ボールに歩み寄りながら「決断ライン」を越えて「実行ボックス」に入ります。いったん「決断ライン」を越えたら何も考えてはいけません。潜在意識に全てを委ねるのです。そして「実行ボックスの滞在時間は短い方がよい(4〜9秒が望ましい)。それ以上長いと、空っぽにした筈の心に、様々な想念が忍び込んで心をかき乱し始める」とされています。
あるゴルフ名人の一人は、「ビクビクすることはない。もう何千回もこのショットを経験して来た。またそれを繰り返すだけだ」と云いました。つまり身体で覚えたことを潜在意識にやらせるのです。強く打とうとか弱く打とうなどと意志の力で達成しようとするのではなく、潜在意識に任せればいいのです。
○忍の一字
逆境にめげないこともメンタル・タフネスの要件です。ボギー・スタートとか連続ボギーを記録しても絶望したりしないこと。どこかでチップイン・バーディがあったりすればチャラになります。希望を捨てず「ボギーは仕方がないが、ダボは許せない」という姿勢で耐え抜くべきです。
PBFU(Post Birdie Fuck Up、バーディの後の大チョンボ)という言葉があります。バーディに気を良くして、その後野方図なショットをしたり【結果はOB】、3パットしたりでダボにするような事態を指します。幸運に慢心したせいです。常に薄氷を踏む思いで、一歩一歩慎重なプレイを重ねることが大事です。
○ミスを認める 11のメイジャーに優勝したWalter Hagen(ウォルター・ヘイゲン、1892〜1969)は、ワン・ラウンドにつき七つのミスを予期していたそうで、「ひどいショットをしてもそれは七つのうちの一個に過ぎないから気にしない」と云っていました。名人にしてこうなのですから、われわれが予期すべきミスはもっと多い筈です。一つのミスに怒り狂ったりせず、素直にミスとその結果を受け容れるべきです。これが平常心を保つ秘訣です。 ○よいコーチたらんとすべし われわれは一打一打毎に「ゆっくり打てよ」「また愚かなミスを犯すなよ」「ヒットダウンしろ、ヒットダウン!」などと自分自身のコーチとなって自分を指導します。失敗すると「なにやってんだテメエ!」「何年ゴルフやってんだ!」などと毒づきます。これは理想的な師弟関係とは云えません。コーチはプレイヤーのいいところを探して褒め、改善のヒントを与えるべきです。 自分自身を叱責するのはテニスのダブルス、バレーボール、野球などのチーム・プレイなどで、ミスした仲間に罵詈雑言を浴びせるのと同じことです。なじられて腹を立てた仲間はやる気を失くすでしょう。ゴルフでも同じです。上から目線で叱責するのではなく、チームとしてどう状況を打開するか・挽回するかを考えるという立場に立つべきです。 |
○他人のショット
他人のショットとの比較で一喜一憂するのは愚かです。「上がってなんぼ」と云うようにゴルフは飛距離だけではないので、毎ホール心の中で他人とヴァーチャル・ドラコンをやっても仕方がありません。
ただし、グリーン上では他人のパットに注目すべきです。上手い人がショートすれば相当遅いグリーンなのかも知れないし、ボールの切れ方でブレイクの傾向が分ります。ただし、下手な人のパットはあまり参考になりません^^。芝目で切れたのか、ストローク・ミスで切れたのか解らないからです。
○ハーフ終了後
スコアを数えてはいけません。「う〜む、80を切るにはインを38で廻らないといけないのか」などと考えると、プレッシャーがかかります。無謀な冒険を決行したり、長いパットを寄せるのではなくぶち込もうとして強く打ち過ぎたり、無理をしがちになります。
メンタル的にタフな人はスコアを数えてもいいでしょうが、そういう人はこんな記事を読まないでしょう^^。タフでない私などは絶対数えません。18ホール終わってからのお楽しみにとっておきます。きわどく7オーヴァーで終了出来たりすると棚からぼた餅が落ちて来たように喜びます。
【参考】
・ゴルフを左右する左右の脳の働き
・ゴルフする心(tips_23.html)
【おことわり】中国の写真はhttps://cdn-ak.f.st-hatena.com/にリンクして表示させて頂いています。
(February 10, 2022)
●'Swing Like a Pro'(プロのようにスウィングせよ)
この本の存在は20年も前から知っていましたし、書店の店頭でめくってみたこともありました。しかし、本のカヴァー・デザインや中身のイラストやレイアウトがダサいと感じられたことと、私が生来「科学的」と称するものにあまり魅力を感じないせいもあって、この本を読もうという気になりませんでした。Brandel Chamblee(ブランデル・シャンブリー)がこの本の著者たちに一目も二目も置いていなかったら、全く縁がない本だったでしょう。
'Swing Like a Pro'
by Dr. Ralph Mann and Fred Griffin (Broadway, 1998)
ブランデル・シャンブリーが評価するのは当然です。両者のコンセプトが類似しているからです。ブランデル・シャンブリーは古今のフィルム、ヴィデオ、写真を分析することによって、名人たちのスウィングの最大公約数を得ようとしました。
'Swing Like a Pro'の二人の共著者は、多数のPGAおよびLPGAツァー・プロに協力を要請し、彼らのスウィングを正面および飛行線後方から高速度カメラで撮影し、身体の各部の動き、クラブ・ヘッドの動きなどをコンピュータで分析し、最大公約数を求めようとしたのです。協力したプロとしては、Jack Nicklaus(ジャック・ニクラス)、Arnold Palmer(アーノルド・パーマー)、Greg Norman(グレッグ・ノーマン)、Davis Love III(デイヴィス・ラヴ三世)、Tom Kite(トム・カイト)、Bobby Clampet(ボビィ・クランペット)、ブランデル・シャンブリーなど数百名。撮影と分析に、なんと17年もかかったそうです。
Dr. Ralph Mann(ラルフ・マン博士)はオリンピックのハードル競技で銀メダルを獲得したアスリートで、スポーツの生体力学の博士号を取得して、オリンピック競技や野球、フットボール、ゴルフなどのパフォーマンス向上の研究に専念。もう一人の著者Fred Griffin(フレッド・グリフィン)はゴルフ・インストラクターで、専門誌多数に寄稿している人です。
20数年前の研究ですから、今となっては常識の部類となっている要素も多いですが、それらが常識となった根拠(なぜ、そうすべきなのか)を説明してくれるので読む価値は充分あります。著者たちは実験材料となったプロたちの体型(身長、体重、細身か太目か)なども考慮に入れていますので、これまで紹介した「体型別スウィング」と大筋において矛盾することはありません。
私がこの本に教えられた諸点:
・ニュートラル・グリップはなぜいけないのか?
・アップライトにアドレスすべき理由
・2秒でスウィングせよ
・パワーに必要な角度は45°である
・フル・フィニッシュを目指せ
これらは順不同で紹介して行く予定です。
【おことわり】モデルの画像はhhttps://www.golfwrx.com/にリンクして表示させて頂いています。
(February 10, 2022)
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