October 20, 2021
●私家版・ゴルフの十戒
以下は私自身のための自戒集ですが、どなたかのお役に立つかも知れません。
1) 薄氷を履(ふ)む思いでプレイせよ これは自作の文句ですが我ながら名言で、この心境の時はいいプレイが出来ます。 自分の得意な距離の寄せが残った時、あるいはOKの距離をちょっと越えるパットなどで、内心「これは頂きだ」とニンマリしながらプレイすると、ダフったりパターを地面につっかえたりしてとんでもないミスを犯すことがあります。打つ前に絶対にニンマリしてはいけないし、「これならパー間違い無し」、「またもバーディだぜ、ウシシ」などと穫らぬ狸の勘定を始めるのも御法度です。 2) 右脳に打たせよ ゴルフは右脳でプレイするスポーツと云われます。打つ前の状況分析やクラブ選択を思考するのは左脳ですが、一たん作戦が決まったら、後は運動神経を司る右脳と潜在意識に委ねなくてはいけません。仲間との会話には左脳が機能していますから、会話した直後に打つとまだ右脳が全権を握っていないので、上の空だったり身体がギクシャクしてスムーズに動かない恐れがあります。会話をやめた後、少なくとも30秒ほどターゲットを見ながら深呼吸するなどして、左脳から右脳へバトン・タッチすべきです。 |
「脳はゴルファーが自分に語りかける際の否定形や制止する言葉を理解出来ない」そうです。「〜するな!」【例:ヘッドアップするな、池に入れるな】ではなく、建設的・希望的に「〜しよう!」【例:ボールを見続けよう、ちゃんと振り抜こう】というように云い方を変えるべきです。
3) 不安を感じるとスウィングが早くなる
これは、ドライヴァーからパッティングに至るまで全てに当てはまる公式です。
クラブ選択の迷い、ライの悪さ、前のホールでのミスの記憶、前方にあるバンカーの恐怖…こうした不安が心に忍び寄ると、われわれのスウィングは早くなります。それは、強打で問題を解決しようという愚かな考えだったり、あるいは「一刻も早くこの難局から逃れ出たい」という窮鼠の本能でもあるでしょう。
私の考えでは、プレイヤー個々の性格・身体的条件などからスウィングの最適のテンポは決まっており、そのテンポであれば正確なショットが打てるのですが、突如スウィング速度を速めると、通常より早くクラブヘッドがインパクト・ゾーンに達するため、フェースがまだスクウェアになる以前にボールとコンタクトしてしまう。これはプッシュの原因です。「経験者は語る」の範疇の理論ですが、私は間違いないと思っています。どんな状況であれ、スウィングのテンポを変えてはいけないのです。
慌てると正確なインパクトが得られず、トップしたりプッシュしたり、ありとあらゆるミスが待っています。いい結果を期待するのでなく、「いいショットをしよう」と決断すべきです。いいショットとは、慌てず騒がず、自分本来のテンポでスウィングし、きっちり正確なインパクトを迎えることです。
ミスを避ける方法は、不安を感じたら《結果を恐れるとスウィングが早くなる》という法則を思い出し、それに抗することです。「よし、落ち着いてゆっくり打とう」と考える。
不安があろうと無かろうと、ゴルフ・ショットというものは打ってみるまで結果は分らないものです。それはBobby Jones(ボビィ・ジョーンズ)であれTiger Woods(タイガー・ウッズ)であれ同じことです。その一打はファイン・ショットになるかも知れないし、OBや池ポチャかも知れない。それがゴルフの面白いところでもあるわけです。彼らだって一抹の不安を感じることはあるでしょうが、彼らは一旦決断したらそのショットの遂行に全身全霊を傾注します。その時、不安はかけらさえ残っていないでしょう。不安を引き摺ったままスウィングしてしまうわれわれと一線を画しています。
「慌てる乞食は貰いが少ない」と云われるように、急ぐのは失敗への招待状です。Nick Faldo(ニック・ファルド)は全盛期どのクラブでも同じテンポでスウィングしたそうです。状況、クラブの違い…にかかわらず、一定のテンポでスウィングすることが秘訣のようです。
4) 強打でなくスコーンと打て 何度か二打目を寄せるのに失敗したホール、あるいはプッシュ/プルしがちなホールのショットは、ややもすると困難をねじ伏せようと力任せに打つ傾向があります。失敗を恐れてスウィングが早くなるだけでなく、無用な力も篭ってしまいます。 私はそういう難局に直面した時、ドライヴァーでもハイブリッドでもアイアンでも、「スコーン!と打とう」と呟くことにしています。力まず、ボールとのいいコンタクトを望むだけ。言葉を替えれば「いいスウィングをしよう」ですが、「スコーン!」にはクラブ・フェースのスウィート・スポットで快打を放とうという打感への期待が篭められているだけで、エクストラの飛距離やピンに寄せようというような欲を排除した想念です。強打や豪打(?)ではなく快打です。野球で云えば、派手なホームランや三塁打でなく、堅実な一塁打か二塁打という感じ。 私が一緒にプレイする90歳近いシニアの何人かは、全く無欲の(力まない)「スコーン!」というスウィングで、軽く180ヤードぐらい飛ばします。その一人はTVを見ながらダンベルを上げ下げする運動をしているそうです。それでも目一杯打とうとするのでなく、「スコーン!」と正確に真っ直ぐ打ちます。私の網膜に焼き付いているそのスウィングが私のモデルです。 5) ティー・ショットの飛距離に自惚れるな |
ティー・ショットが同伴競技者に較べて断トツに飛ぶと、「どんなもんだい。俺って凄いだろ」と笑みを隠すのに苦労したりします。しかし、パー3で見事にワンオンさせたのならともかく、パー4やパー5でのティー・ショットは二打目のための布石でしかなく、10ヤード長く飛ぼうが飛ぶまいが全く意味はありません。重要なのは二打目です。一打目がピンまで残り8番アイアンの距離に飛んだからと云って、それを乗せられなければトータルで失敗です。ピンまで残り5番アイアンの人が二打目を上手く乗せたら、ティー・ショットは短くてもその人の方が偉いのです。
ティー・ショットが一番飛んだゴルファーが、二打目をダフったりトップしたりする姿を見ることはしょっちゅうです。「飛んだ」という事実がゴルファーを「絶好調だ!」と慢心させ、二打目を慎重に打つことを忘れさせてしまう。《ティー・ショットは見世物でしかない》という言葉を思い出すべきです。
6) うまくいったプレイを模倣するな 例えば、練習グリーンのピンから15〜20ヤード離れたエッジからチップしていて、ボールの一つがチップインしたとします。「ウシシ。よし、連続でもう一回チップインさせてやる!」 あなたは前と同じ地点を狙い、同じバックスウィングをし、前と同じフィリーングのインパクトを再現しようとします。結果は?もちろん、入りません。 今度はグリーン上で5メートル離れたカップにパットします。ある一個のボールがするするとカップに招かれたように沈みました。「よし、連続でもう一度沈めてやる!」あなたは前と同じブレイクの頂点を狙い、同じバックストロークをし、前と同じフィリーングの強さを再現しようとします。結果は?もちろん、入りません。 ここで曲者なのは「前と同じ」ことを再現しようと努力することです。ゴルフは(ベン・ホーガンでもない限り)囲碁・将棋のように同じ手を指すということは出来ません。それを証明してお目にかけましょう。 メモ用紙でもチラシの裏でも何でも結構、ボールペンであなたの名前を書いて下さい。漢字でも横文字でも構いません。書けましたか?では、その最初に書いたのとそっくりにもう一度名前を書いて下さい。出来るだけ瓜二つに。 どうでした?最初に書いた方は自由で勢いがある書体だった筈ですが、それを真似して書こうとした二度目の方は活き活きした勢いがなく、貧相な感じではありませんか?模倣する、なぞる…ということはこういうことなのです。「前と同じようにしよう」とすると、決して前と同じにはならないのです。 成功をなぞるのではなく、気持ちも筋肉もリセットし、最初の一歩からやり直すべきです。 |
7) 早めにグリーンのスピードに慣れるべし 夏場、地面が乾燥するとグリーンは早くなる。追い蒔きされた芝が伸びる時グリーンは遅くなる。雨の後も遅い。午前に刈られた芝も午後は芝が伸びるので遅くなる。こういう現象に、早めに気づかないといけません。パットが失敗すると、われわれはストローク法や距離感がいけなかったのだと思いがちになりますが、実はそれらは問題なく、グリーンの状態の変化に気づかなかっただけなのだ…ということが、ままあります。 カラカラに乾いたグリーンへ寄せる場合、ランを10ヤードも見込まないとグリーン・オーヴァーしてしまうこともあります。パッティングの問題だけではなく、グリーンの早さはアプローチの距離感にも影響します。練習グリーンで試しておけばいい…と云われるかも知れませんが、コースのグリーンそっくりに調整された練習グリーンなんて、オーガスタ・ナショナルとそのほか有数のゴルフ場数ヶ所しかないと聞いたことがあります。練習グリーンの速度は信用出来ないと思った方がいいのです。 8) 離れ業を披露しようとするな 例えばバンカーとピンの間が凄く狭いのに、その間にピッチやチップをするようなケース。成功すればやんやの喝采を浴びるでしょうが、距離や方向が定かでないわれわれの技倆では、ショートしてバンカーに落ちる確率が高いでしょう。 |
こういう場面で、英語には"Don't be cute."(小賢しく立ち回ろうとするな)という助言があります。"cute"には「可愛い」という意味だけでなく、「生意気な」という意味があり、この場合は後者です。
バンカーや池、小川などに近い側にセットされたピンを"sucker pin"(サッカー・ピン)と云います。この"sucker"は「カモ」という意味で、"sucker pin"は繁華街で愚かな呑んべを甘い言葉でぼったくりバーに誘う若く魅力的な女の役割です。大枚をはたくことになる呑んべ同様、愚かなゴルファーも"sucker pin"に騙されてバンカーや池に落ち、予期せぬ打数を費やすことになります。
多くのプロやインストラクターたちが、「"sucker pin"は無視して、グリーン中央を狙え」と云っていることを思い出しましょう。
9) ジンクスを無視するべからず ジンクスは迷信です。判っています。私にもいくつかジンクスがありますが、どれも合理的説明がつくわけでもなく、必ず悪いことが起るわけでもありません。 しかし、ジンクスが絡む状況に陥った時、「どうせ迷信だ」と理性で捩じ伏せようとすると、僅かでも心の中で葛藤があります。そしてそのジンクスを100%無視出来るものでもなく、心の中の数パーセントは悪いことが起るかも知れないという不安を払拭出来ません。 そういう心理を抱いている場合、プレイに悪影響を与える可能性があります(スウィングが早くなったり)。ですから、ジンクスを信じないとしても、ジンクスに逆らうべきではないと思います。 私のジンクスの一つは、《ピンに遠い順からプレイする》というルールに反してプレイすると、必ず失敗するというもの。トーナメントでもない場合、スピーディにラウンドするために《打つ準備が出来た者からプレイする》という"ready golf"(レディ・ゴルフ)というカジュアルなルールもあるので、本当は順番を遵守する必要はありません。しかし、私にはそれはジンクスなので、私よりピンに遠い者がぐずぐずしていても先に打ったりしません。バッグの中をかき回して何か探している振りをします^^。 |
10) ラウンドを擲(な)げるな
前半の出来が悪かったからといって、後半も悪いとは限りません。私も「今日は駄目だ…」と思っていたのに、後半でバーディが一つ二つあって、80を切れたことが何度もあります。
堅実にパーを記録し続けていれば、いつかはバーディが転げ込んで来ることがあり得ます。「今日はもう駄目だ」と投げ遣りになるのではなく、「スコアはともかく、いいショットを連続させよう」という姿勢が望ましいでしょう。謙虚に「尻上がりに良くしておいて次回のラウンドに繋げよう…」と思ったりすると、意外にその日のうちにいい結果が出たりするものです。ラウンドを擲(な)げてはいけません。
(Octomber 20, 2021)
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