December 20, 2021
●視覚化をマスターしてスコアを減らす
視覚化の究極はパッティング・ラインがレールのように目に見えることですが、そこまで行かなくても、せめて自分がこれから打つボールの弾道(上下・左右)ぐらいは頭の中で見えるようにしたいものです。英語の諺に"Seeing is believing."(見ることは信ずること)というのがありますが、同時に"Believing is doing."(信ずることは実行すること)でもあるのです。「見る」=「遂行」なのです。
英語のゴルフ雑誌、ゴルフ本には"visualization"(視覚化)という言葉が頻繁に登場します。Jack Nicklaus(ジャック・ニクラス)などは打つ/ストロークする前の儀式(プレショット・ルーティーン)として「視覚化」を取り入れています。
視覚化というのは誰しも日常的に行なっていることで、わざわざ「視覚化の仕方」について学ぶ必要はありません。
例1)あなたの居間にいくつ窓がありますか?台所には?寝室には?窓の数を数えるために、あなたは部屋のイメージを心の中に描いた筈です。それが視覚化です。
例2)目の前に小川があるとします。自分が飛び越えられるかどうかは、目から入った川幅の視覚的情報と脳内に蓄えられている自分の跳躍能力のデータを付き合わせた推測にかかって来ます。小川に沿って歩きながら、「ここは幅があり過ぎる。もう少し狭い方が無難。んーと、おお、ここならいいかも知れない」というような判断は、全て自分が跳躍する姿を想像しながら、無理なく川向こうに着地出来る場面が描けるまで続く筈です。この作業が視覚化です。
○ 潜在意識
'Total Conditioning for Golfers' by Neil Chasan (Sports Reaction Productions, 2000)という本に、スウィングの間に使われる筋肉の種類と動きの強さを、スウィングのパート毎(アドレス、トップ、インパクトなど)に分けてグラフ化したものが掲載されていますが、20種類もの筋肉が同時に複雑に動いていて、「スウィングの間に、これら全ての筋肉の動きを把握することは到底不可能である」という説明が添えられています。「百足(ムカデ)が一本一本の足の動きをコントロールしようと考えたら、動けなくなってしまう」という話と同じです。
スポーツ心理学者Dr. Bee Epstein-Shepherd(ビー・エプスタイン=シェパード博士)によれば、「ゴルフ・スウィングは潜在意識による動作」なのです。誰かがひょいとボールを投げて来たら、われわれは脳が手・腕の筋肉に命令を下す前に本能的にボールを受け止める動作をします。机の上からボールペンが転がり落ちたら、ズボンを穿いている男性は両膝を閉じ、スカートを穿いている女性は両膝を開いてボールペンを受け止めようとします。これも潜在意識による動作であり、脳が筋肉に下した命令ではありません。百足(ムカデ)も百本の足のそれぞれの動き(歩幅と角度など)を考えたりせず、無意識に動かしているから歩けるのです。
○ 見たままを得ることが出来る
上記エプスタイン=シェパード博士は、「ゴルファーは潜在意識に目標を与えなければいけない」と示唆します。ボールの着地点、そこへ飛ぶボールの軌道、それを生み出すスウィング…などを脳内にありありと描くことが出来れば、潜在意識はハッキリとゴルファーの意図を読み取り、その使命を達成するための筋肉系統への動作を準備指令します。"One picture is worth a thousand words."(百聞は一見にしかず)という諺は本当である、と博士は云います。
同博士は"What you see is what you get."(見たままを得ることが出来る)というフレーズがゴルフにも当てはまると主張します。この言葉はMacintoshコンピュータが画面に表示されたそのままを印刷出力する機能を備えた時に使われ出したもので、各単語の頭文字を取って"WYSIWYG"(ウィジウィグ)と呼ばれます。エプスタイン=シェパード博士は、この文句を潜在意識との関係に適用します。
ゴルフの"WYSIWYG"は、「脳内で視覚化すれば、潜在意識がその通り遂行する」というものです。逆に、自分が試みたこともないショットは視覚化出来ませんから、潜在意識もお手上げです。視覚化出来ない場合、潜在意識はどう処理すればよいか途方に暮れ、似たような状況を脳のデータベースから引っ張り出し、適当に処理することになります。精密なショット/ストロークが必要な場合に、お役所仕事のように“適当に”処理されたのではたまったものではありません。
○ 何を視覚化するか
Jack Nicklaus(ジャック・ニクラス)は「理想の着地点、そこに向かう理想の軌道で飛ぶボール、そのボールを打つための理想のスウィング…という短編映画を見る(視覚化する)」と云い、「それは池やOBに飛び込むホラー映画であってはならない」と注意を喚起しています。
誰しも1ラウンドに一度や二度は「今日一番」というショットがある筈です。その時、飛び上がって喜んだり仲間に冗談を云ったりするのでなく、フォロースルーの体勢のままやるべき重要なことがあります。ショットの手応え、ボールの軌道、空の色、草の匂い、温度、湿度、風向や強さ、仲間の喚声、自分自身の満足感・幸福感など、その瞬間の全てを脳内データベースに保存するのです。視覚化で呼び起こすべきなのは、その全てです。
ショット(ストローク)する前の視覚化では、ターゲット(着地点。パットならブレイクを見込んだ目標地点)を定めます。ターゲットは曖昧な「フェアウェイの真ん中」などというものではなく、細かく特定しなければいけません。長いショットであれば「バンカーの左10メートル」とか「三番目の木の影の頂点」、パットであれば「カップの右10センチ」あるいは「カップの向こうの壁の左側に枯れた芝が垂れ下がっているところ」などと、出来るだけ焦点を狭めるべきです。
そのターゲットに向かうボールの軌道(高さ・左右の曲がり)も思い描き、過去のベスト・ショットが与えてくれた満足感を思い出します。これによって心と身体がリラックスし、「過去にやったことを繰り返せばいいだけだ」という落ち着きと自信が湧き上がります。
【参考】
・映画を観るように…(tips_5.html)
・視覚化技術向上法(tips_26.html)
・視覚化を超えて(tips_95.html)
【おことわり】LPGAの画像はhttps://golfdashblog.com/、Jason Dayの画像はhttps://s.wsj.net/にリンクして表示させて頂いています。
(December 20, 2021)
●裸地からの脱出
以下の二つの本の著者・編集者は同一人物で、記事の趣旨もほぼ似通っているので、二つをミックスして紹介します。
'Scrambling Golf'
by George Peper (Prentice Hall, Inc. 1977)
'Golf Magazine's Complete Book of Golf Instruction'
edited by George Peper et al. (Harry N. Abrams, 1997)
「先ずスコアカードの裏側をチェックし、救済措置の有無を確認する。ローカル・ルールで、いいライにドロップ出来るかも知れないからだ。
・長いショット
ディヴォット・ホールからのショット同様、地面より先にボールを打たねばならない。地面を先に打つとクラブは固い土で弾かれてトップしてしまう。パンチ・ショットのようにボールを摘まみ取らねばならない。
スクウェア・スタンスで、ボール位置は通常より後ろにし、両手はボールよりかなり前方で構える。やや広めのどっしり安定したスタンス。必要なら数回の素振りでその安定度を確かめる。手首を固くしてスムーズな3/4スウィングをする。両手が先行するダウンスウィング。
ボールの前半分(ターゲット方向)に目を据えてスウィングする。こうすればボール後方の地面を打つことを防げる。
このショットは普通低く出て転がるショットなので、距離にとって必要なクラブより1クラブ短いものを選ぶ。また、このような草のないライはウッド向きではないので、使わないように。
・短いショット
【編註】バウンスの多いバンカー用ウェッジは、バウンスが固い地面で撥ね返されトップするので使わない方が安全。
インパクトでヒット・ダウンすることが肝要である。ボール位置はスタンス中央。ハーフ・スウィングで、通常よりスローなバックスウィングをする。ダウンスウィングは下半身で開始し、両手がクラブヘッドに先行するインパクト。攻撃的なスウィングでボールとの歯切れの良いコンタクトを目指す。
ボールは低く飛び、二、三度跳ねてから停止する。着地後のランを計算して着地点を定めること」
【参考】
・裸地から寄せる(tips_135.html)
・ハードパン(裸地)からのショット(tips_153.html)
(December 20, 2021)
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