April 26, 2017

快適領域を出(いで)よ

「85ぐらいで廻れれば、ま、いっか…」というようなゴルファーの心理状態があります。例えば、ハンデ15のゴルファーにとっては87が“パー・プレイ”なので、彼にとって85は“2アンダー”です。彼の目標設定(この場合85)をターゲット・スコアと云います。以下はスポーツ心理学者Patrick Cohn, Ph.D.(パトリック・コーン博士)の指摘。

'Going Low'
by Patrick Cohn, Ph.D. (Contemporary Books (2001, $22.95)

「このぐらいで廻れれば…という予測は、偽装されてはいるが快適領域でプレイすることと同根である。これはゴルファーの間にかなり蔓延している自滅的想念だ。プレイヤーの期待に基づいたこの症候群は、その日の現実的スコアと仮想するものに根ざしている。常に期待の範囲内のスコアで廻ろうとしたのでは、生涯初のスコアなど生まれることはあり得ない。期待したよりいいスコアになるのは幸運に恵まれた時だけだ。あなたは、自分の能力はこの程度だ…と考える域を脱することが出来ない。この場合、あなたは単にあなたにとって可能であると思われるスコアの範囲内に甘んじるほかはない。

予断から逃れる第一歩は、ターゲット・スコアを設定したり、特定の日に達成したいスコアに焦点を合わせたりしないことだ。ターゲット・スコアは偽装された期待以外の何ものでもない。

あなたがハンデ20で、ボギー・ゴルフをすることでハッピーなら、どのホールもボギーで廻ろうとするに違いない。そういう心構えは、ダブルボギーの量産に続くのがオチである。それは、ツァー・プロが予選を通過しようと必死になることに類似している。『予選カットを免れなくちゃ』という態度は、あまりにカットに焦点を合わせ過ぎ、カットラインすれすれを行ったり来たりし、一打差で予選を通過かカットの憂き目かという結果に陥る。Tiger Woods(タイガー・ウッズ)の目標は、参加するどのトーナメントでも優勝することであった。彼は自信満々であり、その態度は自分に過大な要求を強いるものであったが、彼は自分自身を卓越した高みに押し上げたのだ。彼は優勝出来なくても、トップ10に納まることが出来た。

 

多くのツァー・プレイヤーはターゲット・スコアを設定することを避ける。PGAツァー・プロScott Verplank(スコット・ヴァープランク、現Championsツァー・プロ)は、その姿勢で生涯初の62を達成したプロである。彼は、ラウンド開始前にどれだけのスコアを達成すべきか…などと考えるべきではないと確信している。彼はターゲット・スコアに焦点を合わせない時にベストのゴルフをする。彼は云う、『スコアについて考えず、単にゲームをプレイする時、どんなスコアになるかの限界はない。スコアに注目しなければ、いいスコアを達成する能力は増大する』」

【参考】「80を切る・虎の巻」(tips_60.html)

(April 26, 2017)

上達への期待は危険である

 

筆者Ray Floyd(レイ・フロイド)はThe MastersとU.S.オープンに各一回、PGA選手権に二回優勝し、世界中で66回の優勝を遂げたプロ。

'The Elements of Scoring'
by Raymond Floyd with Jamie Diaz (Simon & Schuster, 1998, $20.00)

「ゴルフにおいて期待するということは、とても危険なことだ。上達しようと懸命になっている時、何らかの報奨を期待するのは自然である。だが、ゴルフでは何も保証されない。そして、期待するとプレッシャーを作り出し、失望の可能性を増大させるだけだ。

私は期待するのでなく、希望を抱くことにしている。私は成功する能力を持っているという自信はあるが、最良のことを望みながらベストを尽くしつつも、最悪の結果をも覚悟している。私がティーオフする時、私は只二つのことを期待する----フェアウェイを歩くのを楽しむこと、そしてどのショットにも全力で当たることだ。これは私が発見した最も役立つ考え方である」

(April 26, 2017)

馘を賭けた決断〜Tiger Woods(タイガー・ウッズ)のチップイン映像秘話

2005年のthe Masters(マスターズ)最終日のNo.16(池越えのパー3)におけるTiger Woods(タイガー・ウッズ)の二打目のチップインは忘れられるものではありません。Tiger(タイガー)のピンの遥か左上に着地させたチップショットは、ころころと下ってカップに向かい、もう一転がりというところでストップし、Nike(ナイキ)のロゴを1秒ぐらい見せ(莫大な宣伝効果)、やおらぽとんとカップイン。Tigerがもの凄い右下へのブレイクを完全に読み切り、完璧な距離感で放ったショットでした。その一部始終を捉え切ったCBS-TVの映像も見事でしたが、ひょっとするとあの放送は大失敗になるところでした。その裏話をどうぞ。

 

1986年のthe Masters(マスターズ)は46歳で優勝したJack Nicklaus(ジャック・ニクラス)のトーナメントとして知られていますが、彼がNo.17(パー4)での下り3.7メートルのパットを沈めた時、No.17の実況アナだったVerne Lundquist(ヴァーン・ランドクゥイスト)が発した"Yes, sir!"(お見事!)という言葉でも有名で、この場面がTVで引用される時は必ず彼の言葉付きで放送されます。2005年、Verne LundquistはNo.16を担当していて、Tiger Woodsのチップインを目撃することになりました。

'My shot'
by Verne Lundquist with Guy Yocom (Golf Digest, May 2017)

「われわれは皆、Tigerのボールがカップにつんのめる瞬間を捉えた驚くべき映像を目にしている。私の役目は『オー、ワオ!一生のうちでこんなものを見たことある?』と叫ぶことだった。だがもしNorm Patterson(ノーム・パタースン)という名の男がいなかったら、誰一人あの場面を見ることは叶わなかったろう。Tigerのボールがとろとろと傾斜を下り、カップの縁で停止したように見えた時、番組のディレクターSteve Milton(スティーヴ・ミルトン)はボールを捉えているカメラから、Tigerを捉えているカメラにスウィッチしようとした。彼は云った、『6カメ用意、…はい6カメ!』それはTD(テクニカル・ディレクター)であるNorm Pattersonに、Tigerの表情を捉えている6番カメラの映像への切り替えボタンを押せという指令であった。その指令はディレクターSteve Miltonがなすべき完全に正しい決定だったが、TDのNorm Pattersonはその指令を拒否した。彼はボールの映像から離れようとしなかった。

 

それは非常に反抗的な態度であった。大ネットワークにおいて、ディレクターの指令に服従しないのは、馘になっても仕方がない違反行為である。もし、ボールがカップの縁に留まり続けて、視聴者がTigerの悲痛な表情を見られなかったとしたら、Norm Pattersonは厳しい懲罰を受けたであろう(私は内心それを疑わない)。だが、ボールが転げ込んだ時、Norm Pattersonは社内の伝説的英雄となった。彼は、単にゴルフの歴史の中でTVの名場面の一つを生み出した男というだけでなく、彼が職業的生命を賭けた一世一代の博奕に対しても畏敬の対象となったのだ。

翌年の一月、45歳のNorm Pattersonは出張先でのジョギング中の心臓麻痺で亡くなった。彼が反抗した相手であるディレクターSteve Miltonは、葬儀の際Norm Pattersonの直感と本能への信頼の証しとしてこの逸話を人々に語ったのだった」

(April 26, 2017)



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