【詳細3】

ここからは映画'Ghost of Mississippi' 『ゴースト・オブ・ミシシッピー』(1997)のストーリィと重なって来ます。実際の事件を担当した検事の一人Bobby Delaughter(ボビィ・デローター)の著書'Never Too Late'は、この三回目の裁判のための4年間の調査と裁判の一部始終をまとめたものです。彼によれば「この映画は85%事実に即している」そうで、かなり信用していいようです。違いは、実際のMyrlie Eversは彼女を演じた女優Whoopi Goldberg(ウーピィ・ゴールドバーグ)などよりずっと知性的な“美人”だったこと、いくつかの出来事の背景が映像的に派手になるように変更されていることなどでしょうか。

最も違うところは、検事補Bobby Delaughterのボスである検事Ed Peters(エド・ピータース)が反対尋問の名人で、この裁判でも抜群の手腕を発揮しましたが、それが映画では主役のBobby Delaughterがやったようにスリ替えられていることです。被告Byron De La Beckwithを殺人現場から154kmも離れたホームタウンGreenwood(グリーンウッド)で同時刻に見たという警官数人の証言は、被告側が最も拠り所とする証言でした。検事Ed Petersは次のように証人とやりとりします。

検事「1964年の裁判で、あなたは被告をニックネームで呼んでいる。あなたは被告の友人だったのか?」
証人「私があなたと友人でありたいと願う程度の友人である」
検事「何ですって?」
証人「私はあなたの友人でありたいと云ったのだ」
検事「あなたはMedger Eversが殺されたと同時刻に、被告を154km離れた町で見たと証言している」
証人「その通り」
検事「あなたはその事実を州警察、地元警察、検事局、FBIなどに伝えましたか?」
証人「ノー」
検事「何故?」
証人「誰も私に聞かなかったからだ」
検事「殺人事件の重要な情報を捜査本部に伝えるのは、宣誓して警察に勤める者の義務だと思わなかったのか?」
証人「捜査を混乱させたくなかったから伝えなかった」
検事「あなたは弁護人が接触した後、初めて目撃の事実を公開した。それまでに、どれだけの日数が経っていたか?」
証人「覚えていない」
検事「では、助けて上げよう。あなたの友人Byron De La Beckwithは、それまでに八ヶ月も刑務所に入っていた。あなたが私の友人なら、私が無実であるという重要な証言をするまで八ヶ月も待たせないでほしいものだ」

法廷にドッと笑いが湧き起りました。この元警察官は弁護人に買収されて嘘の証言をしていることが示唆された瞬間でした。ペリー・メイスン以上のしたたかさ、頭の冴えです。このやりとりをEd Petersは映画ではBobby Delaughter役に盗まれたわけで、かなり頭に来たそうです。

論告は映画同様Bobby Delaughterが行いました。内容もほぼ映画と同じ。彼は論告を終えてもエモーショナルな興奮が冷めやらないので、最終弁論の最中に立ち上がって「たわごとだ!」などと云い出すことを恐れ、彼のキャリアで最初にして最後、最終弁論を聞くことなく一人で退廷してしまったそうです。

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